【Xデーはあるのか?】ウクライナのパイプラインが破壊される日 欧州を襲う“ロシア天然ガス供給停止”の恐怖、日本への影響も
ウクライナ経由の天然ガスに依存する中東欧国
ウクライナ・ナフトガスはロシア・ガスプロムとの間で、EU向け天然ガスの輸送契約を締結している。09年の供給中断の紛争後、長期契約が締結され、その後19年に新たに5年間の輸送契約が締結された。 06年のウクライナ経由のEU向け輸送量は1300億立方メートル(130BCM)、LNG換算約1億トンあった。中国と輸入量世界一を争う日本の年間LNG輸入量約7000万トンを上回る数量だ。
その後ドイツとロシアの間でノルドストリーム海底パイプラインが完成したことから、19年の契約では20年の輸送予定量は65BCM、21年から24年まで毎年40BCMとされたが、EUによる制裁により21年の輸送実績39.7BCMは、22年18.8BCM、23年13.6BCMに減少した。24年は第3四半期まで年率16BCMペースで推移している(図-4)。 ロシアからEUへの輸送ルートのうちノルドストリーム・パイプラインは22年9月に爆破され(ドイツはウクライナ人を容疑者として手配している)使用不能。またヤマル・パイプラインは22年5月にポーランドが制裁対象として停止したため、EU向けはウクライナルートとタークストリームのみとなっている(図-5)。 スロバキア、オーストリア、モルドバ(EU外)は、ウクライナ経由の天然ガスへの依存が大きく、23年のウクライナ経由の輸入量は、それぞれ3.2BCM、5.7BCM、2.0BCM。スロバキアの依存率は約6割、オーストリアは約7割だった。 イタリア、ハンガリー、クロアチアなどもウクライナ経由の天然ガスを輸入しているが、その依存度は高くなく、仮に供給が途絶えても影響は軽微だ。 依存度が高い3カ国は、供給が途絶えた場合には、ドイツ、イタリアなどに輸入されたLNGの輸送、あるいは他国からの天然ガスの逆流が必要になるが、価格、輸送費の上昇は避けられない。
契約終了の影響は
ロシアは新輸送契約締結の準備ありと表明していたが、ウクライナはロシアに資金を渡すことはできないとして契約終了の立場だった。24年12月19日、ウクライナのゼレンスキー大統領は、戦争終了後にロシアに天然ガス代金を支払う条件であれば、新契約締結の用意ありと表明したが、同日ロシア・プーチン大統領は契約を終了すると発言した。 そんな中、ハンガリーのオルバーン首相と並びEU内でプーチンと親しいとされるスロバキア・フィツォ首相が12月22日クレムリンを訪問し、プーチンに天然ガスの継続供給を要請した。プーチンはスロバキア、西側に天然ガスを供給する用意はあると発言したとされる。 この訪問を受けてか、12月26日にプーチンは新契約締結の用意はあるが、実務的に数日では不可能と発言している。 契約が締結されなかった場合には、ロシアは現在動いているタークストリーム・パイプラインを利用し輸送するしかないが、輸送量には限度があり、ロシアは他に輸送できないウクライナ経由の天然ガス販売収入の大半を失うことになる。 EU外に輸送するためには26年あるいは27年に操業開始予定のバルト海で建設中のLNG積み出し基地の完成を待つしかない。 ウクライナは、ロシアから得ている年間8億から10億ドルの輸送収入で国内パイプラインの保守、維持を行っている。収入を失えば、自国で保守費用の負担が生じる。その結果、国内天然ガス価格は2倍になるとされている。 加えて、いままでパイプラインへの攻撃を控えていたロシアが、パイプライン網を攻撃対象とする可能性もある。厳冬期にパイプライン網が破壊されれば、影響は大きい。