庶民のFFハッチをメーカー自ら魔改造! コスワース謹製エンジンをぶち込んだ「フォード・エスコートRSコスワース」とは
4WDの時代に向けてフォードがWRCに放ったラリーウェポン
フォード・エスコートといえば、団塊の世代にとっては1960年代のマーク1、すなわちエスコートRSであり、いくらか若いバブル世代だとエスコートRSコスワースを思い出すのがデフォかと。正確を期せば、前者もコスワースがチューニングしたエンジンなんですが、今回は後者のウイング付きをご紹介。後述しますが、並行輸入でそれなりの数が入っているので、国内でも中古車を見つけられないわけではなさそうです。 【画像】こちらもコスワースが手がけた驚速マシン! スバル・インプレッサWRX STI CS400 Cosworthの詳細【15枚】 1980年代後半、ヨーロッパ・フォードはツーリングカー選手権にグループAマシンの「シエラRS」で参戦し、紆余曲折しながらも最終的にはいくつかのチャンピオンに輝きました。この勢いでもって同じくグループAで戦われていたラリーも参戦したものの、時代はすでに4WDが優勢となっており、いくらバランスに優れたシエラとはいえFRマシンでは苦しい戦いが余儀なくされたのです。 初代エスコートRSでもってラリーシーンでブイブイいわせていたヨーロッパ・フォードですから「あの栄光をもう一度」となるのは必定。そこで、シャシーの大きさから4WDシステムをブチ込みやすいシエラの4ドア版「サファイア」を使ってシエラRSコスワース4×4を開発したのです。 基本的にはシエラRSと同じパッケージでしたので、それなりの戦闘力を発揮しただけでなく、市販バージョンはシエラと等しく「優れたハンドリング」や「絶妙な足まわり」と極めて高い評価を受けたものです。が、ラリーシーンはそれほど甘くなく、ランチア・デルタやセリカ4WDの後塵を拝すること多数という有様だったのです。
並行輸入で相当数が日本にも上陸
悔しさに奥歯をかみしめたヨーロッパ・フォードは、発売したばかりのエスコート(第5世代)をシエラやサファイアと同様のカリカリにチューンして、ファクトリーマシンを仕立てることを決意。1991年にテストコンポーネントを完成させると、即座にWRCにエントリーし、現役マシンだったサファイア・コスワースより好成績を収めたレースもあったのです。 そして、エスコートRSコスワースが完成・発売したのが1992年のこと。エスコートシリーズはいうまでもなく庶民向けFF2ボックスで、とてもスポーツカーには見えないクルマ。ですが、初代エスコートのオーバーフェンダーしかり、ヨーロッパ・フォードはそういうモディファイがとても上手い! 外装だけを見ても、ボンネットフード上のエアインテークやマッシブなブリスターフェンダー、極めつけは2段のリヤウイング(当初は3段の予定だったそうですが、コストがかかるということで2段に落ち着いたとのこと)で、とても奥様の買い物カーがベースとは信じがたいもの。 そして、搭載されるエンジンはコスワースYBYと呼ばれる直列4気筒DOHCで、1993ccの排気量にギャレットエアリサーチのT03/04タービンを装着。市販バージョンで最高出力227馬力、最大トルク30.4kgmをマークしたとされ、最高速はノーマルギヤセットで227km/hと発表されました。 シャシーコンポーネンツもまた通常のエスコートとはまったく違い、またラリーに参戦していたサファイアよりも強化されていた模様。形式としては前後ともマクファーソンストラットですが、剛性について強化が施されたほか、よりトラクションを稼ぐモディファイが加えられたようです。 ただし、トラクションは向上したものの、駆動系にストレスが寄ったのか、フロントデフはずっと弱点のままだったそう(これはワールドラリーカーのエスコートWRCになってシャシーを刷新するまで続いたようです)。 もっとも、極限性能が試されるレースシーンはともかく、市販車のよさは当時から誰もが認めるところ。コンパクトな車体に、重量バランスに長けたパッケージング、そして洗練の極みかのような足まわりとくれば、人気が出ないはずもありません。また、並行輸入を担ったオートスポーツイワセの値付けもかなり良心的だったように記憶しています。 総生産台数は7145台ともそれ以下とも噂されていますが、このうち2500台はホモロゲ仕様。インテリアやボディカラーなどが簡素化されたホワイトパッケージ(ベース車両)も数百台が生産されたとのことですが、さすがに現存しているクルマは少ないのかと。まれにホモロゲ仕様車もオークションに出品されていますが、レース使用歴がないと2500万円てな落札価格。ロードバージョンでもその半分、つまり1000万円オーバーからスタートという相場観です。 これから先、コスワースチューンのカリカリなエンジンを積んだクルマなんて、到底望めるものでもないでしょう。それを考えると、最後の本気コスワースと呼べるエスコートRSはこれから先も価値が下がらないばかりか、クルマ好きの熱意がどんどん価値を上げていくのではないでしょうか。
石橋 寛
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