「魔鏡」でよみがえる樹齢800年の御神木 津波被害の陸前高田・今泉天満宮
岩手県陸前高田市気仙町に、今泉天満宮という神社がある。2011年3月の東日本大震災の津波で、拝殿や鳥居などが流されたが、御神木の杉の木が1本だけ残された。樹齢800年。地元の人たちに「天神の大杉」と親しまれ、今泉地区を見守ってきた。ところが、津波で海水を被ったため、塩害で根の一部が壊死するなどの被害を受けている。 この御神木を後世に残したいと、国内で唯一魔鏡(まきょう)を作る京都市の職人・山本晃久(あきひさ)さん(39)が立ち上がった。山本さんは昨年8月と9月に今泉天満宮を訪れ、宮司の荒木真幸(まさき)さん(72)の思いを聞き、魔鏡によって、震災前の「天神の大杉」の元気な姿をよみがえらせることを決意した。
魔鏡とは、和鏡(わかがみ)の一種。古くは中国から伝わった銅鏡が日本独自に進化を遂げ、神社の拝殿などに奉納されている。魔鏡は、鏡面に強い光を当てると、表面には見えない模様が反射光に浮かび上がる。 山本さんと荒木さんの2人を結びつけたのは、日本の伝統産業を守ろうと雑誌「婦人画報」が立ち上げたプロジェクト。インターネットで資金を募る「クラウドファウンディング」を活用し、制作資金を集めた。 山本さんは、通常2~3か月で制作するところ、約1年の歳月をかけ、過去最大の魔鏡(直径約33cm)を今月完成させた。魔鏡に光を当てると、津波をかぶる前の元気な「天神の大杉」の姿が、反射光によって浮かび上がる。山本さんは「これまでにない大きさで作っているので、一定の薄さを保って磨くのが、非常に慎重な作業だった」と当時の苦労を振り返る。
現在、今泉天満宮には仮の拝殿が建っており、再建に向けて市民が活動している。今泉天満宮の再建を支援する会(東京都世田谷区)は「都市計画工事が終了する頃までを目指して募金をしたい」としている。陸前高田市の計画では、都市計画工事が終わるのは2018年。震災翌年の2012年6月からこれまでに約1千万円が集まったというが、目標額の1億5千万には及ばず、再建のめどはたっていない。 山本さんは、魔境を仮神殿に奉納するのが良いか、再建されてから奉納した方が良いのは決めかねているとした上で、「魔鏡を奉納しただけでは、被災地の支援としては小さい力だと思います」と話す。それでも、「こうした行動によって、一人でも多くの方に現状を知って頂ければ」と思いを語った。 山本さんが制作した魔鏡は、8月1日から当面の間、京都市の京都伝統産業ふれあい館に展示される。 (山田恵介/THE EAST TIMES)