専門家が指摘する「年金は頼りにならない」論の誤解
②年金積立金は十分ある
これも勘違いなのですが、「年金財政は赤字だ」と言う人が少なからずいます。これは大きな間違いです。赤字なのは国の一般会計で、年金会計は大幅な黒字です。年金会計に積み立てられた金額はかなり多く、2022年3月時点で246兆円にものぼります。 さらに言えば、この年金積立金を運用しているのはGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)というところですが、過去20年間でこの積立金は100兆円ぐらい増えているのです。 そもそも年金積立金というのは年金を支払うための原資ではありません。日本をはじめ、世界中、ほとんどの国は現役世代の支払う保険料を年金支給に充てています。 積立金は単なるバッファーであり、余裕資金なのです。年によっては年金会計において収入よりも支出の方が多くなることもありますが、その時はこの年金積立金から充当しますし、逆に支出よりも収入の方が多くなった年は余った分を年金積立金に繰り入れするというやりかたで運営されてきているのです。 ちなみに246兆円という年金積立金は、年金受給者に支払うとすれば約5年分に相当します。この余裕の大きさは実は世界一です。 アメリカでは積立金の残高は年金支払いの3年分、ヨーロッパの主要国であるドイツやフランスはほとんどゼロに近い金額しかありません。それだけ日本の年金積立金は潤沢にあるということです。今後少子高齢化が進展するにしても、これだけのゆとりを持った日本の年金制度はとても頼りになる存在だと思います。
③低所得の人に恩恵が大きい
公的年金制度には「所得再配分機能」が備わっています。所得再配分とはどういうことかと言うと、高い所得を持つ人から低い所得の人に対して所得の分配がされるということです。 と言っても、高所得者が直接、低所得者にお金を渡すということではありません。政府がその間に入り、税や社会保障という機能を使って調整していくという役割が「所得再配分」です。 図5をご覧ください。この図は手取りの給与が35万7000円のAさんと17万9000円のBさんが負担する毎月の年金保険料と将来受け取る毎月の年金額の比較を表しています。AさんとBさんの給料が2倍違うのは比較しやすくするためです。 さて、年金保険料の負担額は給料に比例しますから、Aさんが払う保険料4万円に対して給料が半分のBさんは2万円となります。 ところが年金給付額を見てみましょう。Aさんの年金給付額は22万円であるのに対して、Bさんの場合は17.5万円です。Bさんの払った保険料はAさんの半分なのに、支給される年金額はAさんの8割ぐらいですね。現役時代の給与とほとんど変わらない金額です。これは一体どういうことでしょう。 その答えが「基礎年金部分」にあります。厚生年金保険の場合、給付は報酬比例部分と定額部分に分かれます。報酬比例部分というのは、文字どおり、給料の額に比例して将来の年金給付額が変わる部分です。 一方、定額部分というのは基礎年金の部分で、これは現役時代の給料に関係なく一定金額が支給されます。国民年金の支給額が、払い込み期間が同じであれば全て同じ金額になるのと一緒です。この例の場合、基礎年金部分は夫婦合計で13万円となります。この金額はAさんもBさんも同じです。 一方、報酬比例部分はAさんが9万円、Bさんが4.5万円ですから、これは払った保険料と同じく、Bさんの方が半分になっています。結果として、Aさんの年金支給額は9万円+13万円=22万円、そしてBさんの支給額は4.5万円+13万円=17.5万円となるのです。