専門家が指摘する「年金は頼りにならない」論の誤解
公的年金に対して、マイナスな印象を抱いている人は多いでしょう。しかし「年金はあてにならない」というのは本当なのでしょうか? 経済コラムニストの大江英樹氏が解説します。 【図】元本ゼロから20年間で2000万円の資産を作るには? シミュレーション ※本稿は大江英樹著『50歳からやってはいけないお金のこと』(2023年5月刊・PHPビジネス新書)より、内容を一部抜粋・編集したものです
年金が頼りになる3つの理由
国の年金である公的年金については、どうも多くの人がネガティブなイメージを持っているようです。これは長年にわたるマスコミによる不安煽り型報道と金融機関による自社金融商品販売促進のためのネガティブセールストークによることが大きな原因と言っていいでしょう。 実際に私もかつて金融機関に勤めていた頃は「年金なんて将来あてになりませんよ」と言ってせっせと投資信託などを勧めていました。恐らく今でも同じようなものだと思います。 ところが今から20年ぐらい前に企業年金の仕事に就くようになり、同時に公的年金のこともきちんと勉強し始めると、公的年金というのは破綻するわけでも頼りにならないわけでもない、むしろ日本の年金の現状は世界的に見ても優れているということがわかりました。 多くの人はイメージだけで判断していますが、実際に数字のエビデンスを見ると、年金はとても安心できるものだということがよくわかります。 年金の実際については、それだけで本が1冊書けるぐらいで、事実、私は2021年に『知らないと損する年金の真実』(ワニブックスPLUS新書)という本を出しました。その本では詳細をあらゆる角度から書いているのですが、本稿においてはポイントになる部分だけを取り上げて、ごく短くまとめたいと思います。 ここでは「年金が頼りになる3つの理由」をお話しします。
①終身支給で物価連動
公的年金が頼りになる最大の理由は、何と言っても終身で支給されることでしょう。 人間は誰でも自分が何歳まで生きるのかはわかりません。「老後に備えて貯蓄や投資をすべきだ」というのはそのとおりですが、貯蓄は使ってしまえばいずれなくなります。自分の貯蓄や投資だけで老後の生活をしようと思っても、想定以上に長生きしてしまうと蓄えが尽きてしまうことが起こり得ます。 貯蓄や投資はあくまでも補助的な役割としては有効ですが、どんな状況になっても死ぬまで支給してくれる公的年金というのはやはりとても頼りになる存在なのです。 ただ、終身で支給されると言っても、将来、物価が上昇して貨幣価値が下がってしまったのでは何もなりません。これについても公的年金は、基本的に物価連動で支給金額が決まるようになっています。なぜそうなっているのかというと、公的年金は現役世代の払う保険料でまかなわれるからです。 保険料というのは賃金に一定の割合を掛けて決まります。つまり、賃金の一定割合で決まるわけです。物価と賃金というのは多少のタイムラグはあっても基本的には連動していきます。したがって、どれだけ物価が上がっても、同じように賃金が上昇するため、年金の支給額も物価に連動して上がっていくのです。