「2か月誰にも会わず」稲川淳二(76)夏の風物詩・32年目を迎える怪談ツアーの創作は昼夜を問わず茨城の工房で黙々と
稲川さん:当事者が存命していることが多いので、アルファベットの匿名にしておこうとか、去年他界されて誰にも迷惑をかけないから実名にしようなど、配慮はします。こんなふうに、まだみなさんに話してない不思議な話が、怪談以外にもたくさんあるんですよ。でも話すとご本人に迷惑をかけてしまうので、言えません。私が死ぬ前にちゃんと、これらをまとめて残していきます。宿題みたいなものかな。私が死んだら、それを見てもらって、それから一緒に埋めてほしいなと思っているんですよ。
■ゾッとするけど優しくて、笑って、泣けるのが怪談 ── 稲川さんの怪談は、優しさやせつなさを感じるものがあり、心を打たれることもしばしばあります。 稲川さん:怪談というのは、人が死んだり、幽霊が出てこなくてもいいんですよ。不思議な話、優しい話もあるんです。たとえば、新潟に伝わる怪談で、臭う沼や燃える池の話というのがあります。じつは、新潟では江戸時代以前から平成まで、石油が採掘されていたんです。でも、石油のことをあまり知らない当時の人には、不思議な現象が起きているように見えたし、ちょっと怖くもある。なんだろう?怖いな、と、こういう感性が必要です。これが怪談なんです。
ただ人が死ぬのは、ミステリーや殺人事件ですよ。怪談は人が死ななくたっていいんです。不思議でドキドキする話もあれば、果たされない想いみたいに穏やかで優しくて、ぞっとするんだけど、ふと考えるとかわいそうだなぁというものもある。思わず笑ってしまうけど、怪談だよねというのもあり、いろいろです。だから怪談は楽しいんです。 ── はじめてラジオで怪談を語ってから40年以上過ぎました。世の中もずいぶん変わりましたが、怪談も変化しましたか?
稲川さん:怪談に関しては、変化はまったく感じません。ただ、生活が変化したので、昔なつかしい話をしていても、伝わらないことがあり、説明が大変なことはありますね。「公衆電話」や「ふすま」を知らない人はいるだろうし、「そのころの田舎」と言っても、それぞれ思い浮かべる光景は異なりますよね。でも、怪談そのものの本質、たとえばお迎え(死)に向き合うかたちなどは、今も昔もそんなに変わりません。 ── 怪談ツアーの功績が認められ、2012年には8月13日が怪談の日と認定されました。ちなみに…稲川さん自身は霊感があるんですか?