「2か月誰にも会わず」稲川淳二(76)夏の風物詩・32年目を迎える怪談ツアーの創作は昼夜を問わず茨城の工房で黙々と
── 怪談が国境を超えたんですね。ライブで出会って、結婚したカップルもいると聞きました。 稲川さん:実際はもっと多いかもしれませんが、私が連絡をいただいて、結婚式にメッセージを送っただけでも5組います。みなさん、笑って泣いて、なかには歩けなくなるほど感動する人もいるんですよ。優しい怪談もありますからね。そんな興奮状態を共有した男女が出会えば、「来年も一緒に行こうよ」とカップルもできますよね。
■人から聞いた話ですが…「うそ怪談」は怖くない ── ライブで語った怪談数は494。毎年、新作を発表されているとはすごいです。怪談はどのようにうまれるのですか?よく「誰々さんから聞いた話ですが…」というものがありますが。 稲川さん:自分で取材して作ります。「人から聞いた話で~」とはじめる怪談もありますが、人から聞いた話でそのまま使える話はほぼありません。話を聞くと、だいたい「怖かった」という部分だけで終わっちゃうんです。大切なのは、なぜその状況が起きたのか背景を調べること。そして、その怖さをどういう展開で伝えるか、です。これには時間かかるんですよ。もちろん取材にも行きます。さすがに有名な心霊スポットにはもう行きませんが、その地域で噂のある現場などを探して行きます。
やはり、自分で調べないと話が違ってしまいます。他人の作った怪談を聞いていても、時代背景などが違ったり、矛盾していたりすると思うことがよくあります。戦争中にさかのぼる怪談でも、よく調べれば「それは絶対ない」とわかります。年代や社会状況を調べないと、うそ怪談になっちゃうし、うそ怪談は怖くないんです。だから、怪談は簡単に作れるものではないんですよ。 ── 怪談作りに、誠実さと責任感をもってのぞまれているんですね。工業デザイナーの経験もあり、ものを作るのが好きとうかがいましたが、怪談も作りこむ感覚なのでしょうね。
稲川さん:ライブツアー前の最後2か月間、茨城にある自分の工房にこもってまとめます。工房は高台にあって、広い土地の向こうの海から日の出が見えるんですよ。誰ひとり、人を見かけない日もあります。そういうところで、だんだん頭が覚醒されていき、昼夜を問わずに作りこんでいます。この工程は、自宅ではできませんね、怪談作りはひとりがいいです。 ── 2か月間、工房にこもる!怪談作りで気をつけていることはありますか?