井上尚弥がまた怪物伝説。両拳を痛めながらもダウンを奪い大差V2!
ボクシングのダブル世界戦が8日、有明コロシアムで行われ、WBO世界Sフライ級王者の井上尚弥(23歳、大橋)が、同級1位のダビド・カルモナ(24歳、メキシコ)を3-0の大差の判定勝利で下し2度目の防衛戦に成功した。井上は2ラウンドに古傷の右拳を痛め、左手一本で戦い、終盤には左拳までも痛めて絶対絶命となったが、12ラウンドにダウンを奪って会場を盛り上げた。両拳を痛めながらの圧勝判定防衛に改めて井上の怪物ぶりを世界に印象づける伝説のV2戦となった。
その右拳に異変が起きたのは2ラウンドだった。 井上の右の強烈なストレートがチャレンジャーのコメカミ付近を直撃。堅い頭を殴ったことで、試合開始早々に古傷の右拳を痛めてしまったのである。拳を痛めるのはハードパンチャーの宿命とも言えるが、これまでもたびたび痛め、一昨年の年末にオマール・ナルバエスをKOで倒して2階級制覇に成功した試合では拳を骨折、その後手術を行い、丸一年試合から遠ざかった。ある意味、井上が抱えている不安な“爆弾”が爆発してしまったのである。 だが、井上は「負けるという焦りはなかった。ただ、この2試合続けてきた、いい流れの勝ち方を超えるインパクトは与えられないかもしれない、という焦りがあった」という。なんという自信。利き腕が使えないというのに、まだインパクトのある勝ち方を求めたのだ。 しかも、父であるセカンドの真吾トレーナーには、右拳を異変を伝えなかった。 2ラウンドから井上は、左手一本で試合を組み立てる。 「倒すなら距離をつめての左フックしかなかった。」 ジャブだけでなく、距離を詰めて至近距離からの左フックを狙う。痛めた右は、衝撃の小さい柔らかいボディへ。それでも相手は、昨年の暫定世界戦で引き分けたランキング1位である。簡単に左手一本の井上の餌食になるほど甘くない。「詰める過程で、サークリング(ステップを使って円を描くように動くこと)を使われ、うまくいかなかった。タフだった」。 5ラウンドに入る前に、井上が「右手を痛めた。でも打てないほどではない」と、ようやくセコンドに打ち明けると、真吾トレーナーは、「もう行かせていいですか?」と、大橋会長にGOサインを求めた。右を使えない状況で、これ以上試合を長引かせたくない。ボクシングは何が起こるかわからないのだ。 そのラウンド、左から距離をつめ、痛めた右も使ってパンチをまとめた。右拳のナックル部分を当てないように工夫をしてラッシュ。ロープを背負ったメキシカンは、よろけてクリンチに逃げるほど、ダメージを受けたが、いかんせん思い切り使えない右拳では、フィニッシュまで持っていくことはできない。 6ラウンドは、接近戦。7ラウンドは、右のボディストレート。8ラウンドは、L字ガードから体を起こし、あえて手数を減らしカルモナのパンチを誘う。左のカウンターの一撃を食らわせようと罠を仕掛けたが、そのうち頼りの左拳まで痛めてしまった。ボクサーが両拳を使えないとなると、もう致命傷である。 真吾トレーナーも「もう指示のしようがなかった」と言う。 しかし、ここからが井上が、モンスターと呼ばれる由縁である。最終ラウンド。 「(両拳が)痛くても、ラストラウンドは、見せ場を作りたかった。ボディは打てるんだから」 左右のパンチを徹底してボデイに集めた。カルモナが顔をゆがめてロープに下がると、井上は左右の連打、連打、連打……最後は、痛めた右のストレートに挑戦者は力尽きたかのように膝まづいた。残り18秒。立ち上がったカルモナに再び井上が襲いかかったが、惜しくも試合終了のゴング。若き王者は苦笑いを浮かべた。 2人が「118-109」、一人が「116-111」の大差の3-0勝利。