「元の世界に帰れなくなりそう」 足の生えた寿司や串焼き 異形と囲む不思議な食卓が話題に
食べたら元の世界に帰れなくなりそう――。ちゃぶ台の前に座った少年を取り囲むのは、まるで異界から現れたような見た目の彫像たち。SNSで話題になった不思議な作品について取材しました。(朝日新聞デジタル企画報道部・武田啓亮) 【画像】食べたら帰れなくなりそう 異形たちと囲む不思議な食卓
不思議な世界観
Xで話題になったのは、彫刻家の浅野暢晴さんの投稿です。 「なんだコイツ」「人間っていうらしいぞ」「珍しいな」 「喰うか?」「腹へってるか?」「泊まってくか?」 古い民家の居間に置かれたちゃぶ台の前に座る少年と、奇妙な見た目の彫像たち。 ちゃぶ台の上には所狭しとご馳走が並んでいます。 写真に添えられた少年に話しかけているようなセリフが、作品の持つ独特の世界観を強調しています。 その後も不思議な住人たちと食卓を囲む写真が連続で投稿されますが、人間の方は少しずつ年齢を重ねていきます。 「デカくなったな」「本当にあの子か?」「喰ってけ」 「ゆっくりしてけ」「ヒゲそれ」「喰っていいぞ」 「見えてるか?」「なんで来た」「聞こえてるか?」 そして、一連の投稿は、縁側の奥の暗闇を映した写真と短い一言で終わります。 「腹いっぱいだ」 SNS上では「かわいい」「こういう世界観かなり好き」といった反応のほか、「食べたら元の世界に帰れなくなりそう」「『喰うか』の文字に不穏な気配を嗅ぎ取ってしまった」と、不気味な雰囲気を感じた人もいたようです。
その名はトリックスター
浅野さんによると、この写真に映っている彫像は、昨年群馬県で開催された芸術祭「中之条ビエンナーレ」に展示された「異形の食卓」という作品だそうです。 「人がいなくなってしまった古民家で、不思議な存在が人間の真似をしているイメージです。死者の国の食べ物を食べると現世に戻れなくなるという『ヨモツヘグイ』の神話もモチーフの一つになっています」 確かに、食卓に並んでいる食べ物はお寿司や串焼きなどに良く似ていますが、よく見ると足が生えていて、この世界のものではないようです。 「ちゃぶ台の一角には空きがあります。鑑賞する人がそこに座ることで作品として完成します。展示場所の古民家も含めて、空間全体が作品になっています」 一連の投稿した写真に映っていた人物は、浅野さんの次男(8歳)、長男(12歳)、そして浅野さん自身(45歳)だそうです。 「最初はシンプルに作品の紹介をするつもりだったのですが、投稿している途中で組写真のように、投稿に時間の経過やストーリー性を持たせたら面白いのではないかと思いついたんです」 古民家の居間に並べた彫像は粘土を焼いて作った陶器製で、浅野さんは「トリックスター」と名付けているそうです。 投稿の中でトリックスターは「ゆっくりしてけ」「お茶のめるか」と友好的に話しかけてくる一方で、食卓にご馳走があるにも関わらず「腹へった」としか言わない個体や「お前喰えるのか?」と不穏な発言をする個体もいました。 「トリックスターは人間に友好的なものもいれば、ちょっと怖いものもいる、妖怪のような存在として表現しています」