賃上げムードは“本物”か? 盛り上がりに欠ける中小企業の賃上げ、ボトルネックはどこに【ニュース深掘り】#名古屋発
「賃金改善あり」は過去最多
「満額」の文字が躍った今年の春闘。組合要求を上回る引き上げ回答もあり、昨年をさらに上回る賃上げムードとなっている。ここだけ切り取れば、植田日銀総裁に利上げを決断させるのに足る熱量を感じられる。しかし、春闘のニュースで取り上げられるような上場・大手はともかく、中小企業の賃上げにはそれほどの盛り上がりはないようにみえる。 帝国データバンクが行った「賃金動向に関する企業の意識調査」によると、2024年度に賃金改善を見込む東海4県(愛知・岐阜・三重・静岡)企業は59.9%となり、全国(59.7%)を若干だが上回った。このアンケート調査は2006年から毎年実施しているが、賃金改善見込みありの割合は過去最高となった。かつてないほどに高まっている賃上げムードの実態が、数字の上でも明らかになったと言えるが、すべての事業者がポジティブなわけではない。 まず顕著なのは、企業規模間の格差だ。賃金改善「あり」の割合は、「大企業」が62.1%だったのに対し、「小規模企業」は50.1%とその差は12.0ポイントもある。前回(2023年)調査のときは、「大企業」が48.5%で「小規模企業」が46.7%と差は1.8ポイントだったから、規模間格差は大きく拡大している。
「人手不足だから賃上げ」の大企業
賃金改善を行う理由を分析すると、この格差の一因が垣間見えてくる。全体では「労働力の定着・確保」が76.9%で最多となったが、規模別で区分けすると「大企業」が78.7%だったのに対し、「小規模企業」は66.0%にとどまっている。また、今回の調査から新たに選択肢とした「採用力の強化」は全体が38.0%だったが、「大企業」の56.5%に対し「小規模企業」は21.1%と半分以下だった。 同じタイミングで行った「人手不足に対する企業の動向調査」でも、正社員を不足と感じている東海4県企業は、「大企業」が64.1%だったのに対し、「小規模企業」は40.3%と大きく差が開いている。人手不足をフォローするために賃上げを続ける大企業と、人手不足感はそれほど強くないから賃上げ意欲も高くない小規模企業、という見方も可能かもしれない。 同じ視点で業界別をみてみると、「運輸・倉庫」は正社員「不足」が業界別で最も高く(78.9%)、賃金改善「あり」も63.4%と全体を3ポイント以上上回った。対して正社員「不足」は41.0%と比較的低い「小売」は、賃金改善「あり」も46.5%にとどまっている。