"モンスター親"だと思うのも当然…「子どもがケガをしてる!」と激怒する母親(37)に教師が冷たく対応したワケ
■子どもを無理やり起こし、無理やり母乳を飲ませる Mさんはこれまでも日課の変更が嫌いで、毎日の決まり切ったルーティーンをしっかりしなくては気が済まないところがあった。 今日の予定表を分単位までカレンダーに書き込み、しかも1週間あるいは1カ月先の予定までびっしり記入していた。予定していたことが円滑にいかない場合は不安になって、時にはパニックのようになったり、気分が落ち込んだりする。 心療内科では医師から自閉スペクトラム症の疑いと指摘され、投薬こそなかったものの、Mさん自身もそんな特徴が自分にあるという認識は持っていた。Mさんは離乳食を開始する前の授乳する場面でも似たようなエピソードが見られた。 Mさんは出生まもない乳児はおっぱいを飲む量も少ないため、3時間ごとの授乳をすることが必要とどこからかで学び、その知識を入れていた。それはそれで悪くはないが、Mさんの場合は子どもがスヤスヤと寝ていても、時間を正確に計り、3時間が経ったら無理矢理に子どもを起こしてまできっちりおっぱいを与える。 当然、子ども側からすると、気持ちよく寝ていたのに急に起こされ、口に乳首をくわえさせられるので、どんな気持ちになるか想像できる。しかし、Mさんはそんなことはお構いなしに、子どもの気持ちよりも時間を優先した子育てをしていた。 ■「無茶苦茶な子育て」には特別な事情がある場合も 今回の娘への離乳食時も、決まった量の食事を食べさせなければMさんは不安で不安で仕方ない。少しでも残そうとするものならその不安が極限に達して、無理矢理に口に入れ込む行動となってしまったのであった。 確かに、初めての子育ての親は何もかも不安だらけで、育児書あるいはインターネットで書かれているやり方通りにいかないと心配でならないと訴える人も多い。ただ、仮にそうだとしても、目の前の子どもの様子を見ながら、嫌がっているんだとしたらこちらの行動にブレーキを利かせることも必要となってくる。 このMさんの場合は、発達障害の特性もあったゆえ、決まり切ったことをしないと不安が増大し、しかも目の前の子どもの気持ちへの共感も働きにくかったために今回の出来事となってしまった。いずれの事例においても、親に発達障害の特性があるために、子どもの立場に立てずに自分本位な子育てになってしまったり、子どもとのコミュニケーションができずに子どもがストレスを感じ、時には傷つき体験にまで至ってしまったケースである。 そんな養育のあり方を外から見ていると、「なんと無茶苦茶な子育て」「あまりにもひどい親」と思われるかもしれないが、特性がそうさせている面も大きいのである。われわれ支援者、そして周囲の人間はそこをしっかり見据えながら、その対処の方法を考えていくことこそが大事だと言える。 ---------- 橋本 和明(はしもと・かずあき) 国際医療福祉大学教授 1959年、大阪府生まれ。名古屋大学教育学部卒。武庫川女子大学大学院臨床教育研究科修士課程修了。専門は非行臨床や犯罪心理学、児童虐待。大学を卒業後、家庭裁判所調査官として勤務。花園大学社会福祉学部教授を経て現職。児童虐待に関する事件の犯罪心理鑑定や児童相談所のスーパーバイザーを行う。現在、内閣府こども家庭庁審議会児童虐待防止対策部会委員。公認心理師試験研修センター実務基礎研修検討委員。日本子ども虐待防止学会理事。日本犯罪心理学会常任理事。主な著書に、『虐待と非行臨床』(単著、創元社)、『非行臨床の技術-実践としての面接、ケース理解、報告』(単著、金剛出版)、『子育て支援ガイドブック-「逆境を乗り越える」子育て技術』(編著、金剛出版)、『犯罪心理鑑定の技術』(編著、金剛出版)、『子どもをうまく愛せない親たち 発達障害のある親の子育て支援の現場から』(朝日新書)などがある。 ----------
国際医療福祉大学教授 橋本 和明