【密着】沖縄・久米島 島人と結婚し移住 公務員を辞めクラフトビールに人生をかける娘へ届ける両親の想い
今回の配達先は、沖縄県の久米島。ここでクラフトビール醸造家として奮闘する島袋陽子さん(40)へ、茨城県で暮らす父・光明さん(66)、母・千景さん(65)が届けたおもいとは―。
島で唯一の醸造所 たった1人でクラフトビールを製造する
沖縄本島から西へ約100キロの位置にある久米島。陽子さんはこの島で唯一のクラフトビール醸造所「ブルワリー ツムギ」を営んでいる。商品のひとつが、久米島のシークワーサーを使った「夏の日のセゾン」。ほかにもパッションフルーツを使用するなど、島の食材にこだわったビールを常に5種類製造。インターネットで販売するほか、地元のスーパーや飲食店などに卸している。また、醸造所にはビアバーを併設。営業日には地元の人や県外からの移住者で賑わい、個性を感じる出来立てのクラフトビールを楽しんでいる。 4基のタンクが並ぶ醸造所で働くのは、陽子さんたった1人。大きな仕込み樽でビールの元となる麦汁を作り、ホップやシークワーサーなどを加えて香り、苦みをつけていく。重い材料を撹拌したり、長時間煮沸したりとクラフトビール作りは肉体労働。作業時の室温は35度、湿度は74%にもなる。そんな中、最後は酵母を使ってアルコールを作り出すという工程。そしてその際に、最も気をつけなければいけないのが“納豆を食べないこと”。繁殖力が強い納豆菌が混入してしまうとビールがダメになってしまうそうで、陽子さんもこの時期ばかりは出身地・茨城のソウルフードである納豆を口にしないという。こうして熟成期間を経て、約3週間でクラフトビールが完成する。
2年前までは町役場の公務員 疲弊する中で心を動かされたクラフトビール
実は、陽子さんは2年前まで久米島町の役場に勤務する公務員だった。しかしコロナ禍で状況が一変。終わりの見えない激務が続き、心身が疲弊していったという。そんなある日、冷蔵庫にしまっていたクラフトビールを見つけて久々に飲んでみると、作り手の思いがガツンと伝わってくるようなおいしさに心を動かされた。「私も誰かを感動させられるようなビールを作りたい」、そう決意した陽子さんは38歳で11年勤めた役場を退職。そしてビール作りの勉強や資材調達に奔走し、わずか1年で開業にこぎつけたのだった。