白浜“水難偽装”殺人事件 1審有罪の根拠を否定…それでも2審も有罪の理由とは 元裁判官は「殺害計画があったから有罪という結論先取りにはなっていないか」
■2審では「砂」の存在について改めて審理
弁護側は無罪を主張して控訴。2審の大阪高裁(齋藤正人裁判長)では、3人の法医学者による証人尋問が行われ「胃の中の砂の存在」などについて審理された。 そして迎えた3月4日の判決。大阪高裁は野田被告側の控訴を棄却し、1審の有罪判決を支持した。しかし、判決文に書かれた有罪の判断理由は1審とは異なるものだった。
1審判決では、被害者の胃から多量の砂が出てきたと救急医が証言としたことに判断のポイントがあった。水難事故の専門家が、被害者は水中で抑え込まれ、砂まじりの海水を飲んでしまったので胃に砂があったと説明し、殺害の根拠となった。しかし、この砂は捨てられてしまっていた。 高裁では、1審の「多量の砂」を根拠とする殺害認定について、「砂が廃棄されて存在しない中、目撃した砂の量を認定するのには無理がある」と、量について否定した。 さらに、水難事故の専門家が主張した多量の砂を含む海水を飲み込むメカニズムについても「医学的知見に反し採用し得ない」と退けた。そして、「事故や自殺の可能性も否定できず、胃内にのみ相当量の砂が入ったのは不自然というだけで、殺人事件と判断した1審判決は不合理」と判断したのだった。1審で有罪の決め手となった証拠を否定したのだった。 これでは、結論は覆りそうだ。しかしそれでも、高裁が「有罪」と判断したのはなぜなのか。72ページにも及ぶ判決文には、その判断理由となった間接事実が積み上げられていた。
■積み上げられた間接理由 「殺害計画と符合する溺死」
【野田被告と志帆さん、そして交際相手との関係と経緯】 野田被告は事件の約5カ月前に交際相手に婚約指輪を渡してプロポーズ。その後、相手の妊娠がわかると、被告の両親に交際相手と結婚したいと告げ、7月末までに離婚届を提出すると約束した。 一方で、妻の志帆さんに離婚を切り出すことはなく、事件の1カ月前に不倫と相手の妊娠を知られると野田被告は「一生をかけて償わせてほしい」と謝罪し、関係の修復を求めた。志帆さんは「相手の女性が中絶しなければ即離婚する」などと母親に話していたという。 【ウェブ検索と保険契約】 野田被告は、不倫相手と交際以降、被告人や志帆さんを被保険者とする生命保険を締結し、海水浴中の死亡事故や溺死事故に見せかけた殺人などに関するウェブの検索や閲覧を繰り返すようになる。そして事件前日にも「溺死に見せかける」と検索したり、「完全犯罪ってできるんですか?」というサイトを閲覧していた。
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