「ホラー業界の可能性が広がった」【ホラー作家・梨×株式会社闇・頓花聖太郎インタビュー】
頓花:普通、展示会の図録って写真で見てその展示会を思い出すという使い方だと思うのですが、梨さんは展示会全体を物語として作っているので、すべての写真に物語性を込めているんです。 そのため、読み返していわゆる考察みたいなことをする、という点で『行方不明展』は僕自身も本としてゆっくり読みたい、手元に取っておきたい、みたいなのがあったのでよかったです。『つねにすでに』は……これ梨さんはどうやって本にするんだろうな、と僕はずっと思っていました(笑)。 梨:なんとかなるかなと(笑)。 頓花:なんとかなってよかった(笑)。梨さんの哲学で「インターネット上にあるものっていつまであるかわからない」というものがあったので、本という物質を媒介することである種それが手元にあるというメタ的な楽しみができるのがこの『つねにすでに』の本だと思っているのですが、梨さんどうですか? 梨:おっしゃる通りで、本ってアーカイブにすごく適しているんですが、一方で、物語を追体験するのには向いていないんです。つまり、どうしても受容型というか、与えられた情報をそのまま受け取るしかない媒体だとは思っています。
梨:そのうえで、『つねにすでに』もそうですが、『行方不明展』も本に落とし込む時に必要だと思っていたのが、新しい読書体験を一緒に作り上げてくれて、いろんな演出を面白がってくれる出版社さんの存在でした。 『行方不明展』は太田出版さん、『つねにすでに』はひろのぶと株式会社さんから出版されるのですが、どちらも本当に頑張ってくれて。『行方不明展』はページが徐々に白から黒になっていくので、読み進めていき気付くとどんどん闇に引き込まれていく、という装丁になっています。 頓花:『つねにすでに』の表紙は本当にホラーか!?というくらいまっしろですしね。でも、あの体験を極限まで追体験できるように一緒に考えてくださっているので、先ほども言ったメタ的な楽しみ方がしっかりとできるようになっていると思います。 ーー両出版社さんとともに新しい読書体験を一緒に作り上げていったということですが、今回はイベントやフェアなど出版社の垣根を越えて実施されると伺いました。 頓花:そうですね。書籍化をやっていたのがほぼ同時期で、どっちを先に出すのかとか考えるとややこしくなりそうだったので、無邪気に「同時発売ってできませんか?」と聞いてみたらまさかのオッケーで。色々調整にご迷惑はおかけしたと思いますが、どちらの出版社さんも前例のない出版社を越境した取り組みだったにもかかわらず、面白そうだね、と会社からも後押しをいただけたとのことで、本当にいい形で発売ができそうなのでありがたい限りです。
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