実業家装った中国スパイがアンドルー英王子と「親密な関係」 エリート層への浸透工作判明
【ロンドン=黒瀬悦成】チャールズ英国王の弟であるアンドルー王子と親密な関係にあった中国人実業家(50)が中国政府のスパイである疑いが明るみに出た。英政界では、中国共産党が英エリート層への影響力行使や先端技術の窃取を狙って多様な分野に浸透している実態の一端を示すものだとして、波紋が広がっている。 英国の安全保障に関わる移民の扱いを審理する特別移民上訴委員会(SIAC)によると、この中国人実業家は2002年に留学のため訪英し、05年に英国内で旅行事業を立ち上げ、13年からは滞在期間の制限なしに英国への滞在を認められる権利を得た。 ところが、実業家は21年11月に英国に入国しようとした際、外国政府による敵対的活動に関与した恐れがあるとして警察に事情聴取され、携帯端末などの電子機器を一時没収された。 当時の保守党政権は、端末から得られた情報などを根拠に、実業家が「英国の安全保障を脅かす恐れがある」として23年3月に英国外への追放を決定。実業家はこれを不服としてSIACに訴えたが、SIACは今月12日、政府の決定を維持すると判断した。 SIACによると、実業家は20年に王子の誕生日会に招かれたほか、中国で「協力者や出資者になりそうな相手」に対して実業家が王子の代理人として活動することが王子側から認められていたという。 SIACは実業家と王子との関係が中国政府による英国への政治介入に利用される可能性があると認定した。英BBC放送によると英当局は実業家について、外国での影響力工作に従事する中国共産党中央委員会の中央統一戦線工作部の関係者と位置付けている。 王子は13日の声明で、実業家と「接触を絶った」と表明した上で「機密に関する話は一切していない」と強調。実業家は疑惑を否定している。SIACは人権保護の観点から実業家の名前を伏せてきたが、16日になり実名である「ヤン・テンボ」の公表を認めた。 王子は児童買春の罪で起訴されて勾留中に死亡した米富豪ジェフリー・エプスタイン元被告とつながりがあったとして19年に公務を退き、22年には軍や慈善団体の役職も剝奪された。