被災地では1週間以上、風呂に入れない…水道、電気、ガスが止まっても快適に過ごす「防災のプロ」の知恵
■「避難生活をいつもの日常に近づける」 「電気が止まったら、冷凍庫の溶けやすい物から順に食べるんです。冷蔵庫は食の備蓄庫に早変わりすると考えて、普段から好きな食料を用意したほうがいいです。元気に前向きになれる。それには、備えと普段使いを分けないことです」と辻さんは言う。 辻さん宅では、ラーメンやカレー、パスタなど常温食材は、ガスコンロとボンベ、カトラリーを一緒にセットして、いざという時にそのまますぐに使えるように保管している。同じ食材を毎日食べても飽きないように、普段から常温食を使ったレシピを開発してレパートリーを増やしているという。 また、家族各自の防災リュックには「自分を喜ばせるための食べ物」も入れている。好きな物を食べることによって、「避難生活をいつもの日常に近づける」。辻さんの発想はぜひ見習いたい。 ■「3・3・3の法則」でストレス解消 「避難所生活には“快適”はありません。1帖程度のスペースで知らない人の隣で雑魚寝することになるわけですから、臭いや物音で睡眠もなかなかできず、想像以上のストレスがかかります。それでも、大丈夫。快適に過ごす方法はありますから」 辻さんが提唱しているのが「3・3・3の法則」だ。 「アロマオイルやハンドクリームなど自分が好きな香りを『3秒』嗅ぐと気分転換ができますし、毛布や二の腕など触り心地がいいものに『3分』触れると気持ちが落ち着きます。また、好きな本や写真、“推し”のアクリルスタンドを『30分』読んだり見たりすると、心が癒やされます」 万が一自宅が倒壊し、避難所生活をせざる得ない場合を想定し、持ち出しバッグに入れておきたいのが、こうした「自分を元気づけ、喜ばせてくれる物」だ。辻さん自身、被災地では必ず好きな香りである「オレンジオイル」と「バニラオイル」を携行するという。 被災地では、女性は柑橘系の香り、男性は意外かもしれないがバニラオイルを好む人が多いそうだ。 「災害が起きると、人は五感を刺激するいい香りに飢えてくるんですね。被災すると幸せな生活の香りが一切なくなる。その上、断水でお風呂に入れないために、他人だけでなくて自分の身体から発する強烈な臭いに気持ちが滅入る。そんな時に、ティッシュに精油を数滴垂らして手渡すと、みなさん夢中になって匂いを嗅ぐ。その後は表情も和らいで前向きな気持ちを取り戻すんです」 (第3回に続く) ---------- 辻 直美(つじ・なおみ) 国際災害レスキューナース 一般社団法人育母塾代表理事。吹田市民病院勤務時代に阪神・淡路大震災で被災、実家が全壊する。その後赴任した聖路加国際病院救命救急部で地下鉄サリン事件の救命活動にあたり、本格的に災害医療活動を始める。東日本大震災や西日本豪雨などで救助を行う。現在はフリーランスのナースとして国内での講演、病院や企業や行政にむけて防災教育をメインに活動中。全面監修した防災リュックも販売している。著書に『レスキューナースが教える プチプラ防災』(扶桑社)など。 ----------
国際災害レスキューナース 辻 直美 文・構成=ライター・中沢弘子