中国ゲーム開発会社「ゲームサイエンス」が開発したアクションＲＰＧゲーム『黒神話：悟空』はゲーム発売３日後の先月２３日、ゲーム販売量１０００万本を達成した。写真は先月２３日にこのような内容を告知する『黒神話：悟空』公式Ｘに投稿されたイメージ。［写真　『黒神話：悟空』Ｘキャプチャー］

孫悟空に中国が熱狂している。自国ゲーム『黒神話：悟空』の興行のためだ。優れたグラフィックやゲーム性などを前面に出して世界市場で人気を集めている同作に、中国の若者はもちろん中国政府まで興奮を隠せずにいる。だが、これを契機にゲーム市場も米国と中国の技術覇権競争の戦場になるだろうという観測が出ている。 【写真】北京の通りに設置されたゲーム『黒神話：悟空』の大型広告スクリーン 悟空は中国古典『西遊記』をモチーフにしたビデオゲーム（コンソール）用アクションＲＰＧゲームだ。西遊記の中の主人公「孫悟空」が如意棒や変化術などで強敵を倒していくのが主な内容だ。プレイステーション５（ＰＳ５）やＰＣゲームプラットフォーム「Ｓｔｅａｍ（スチーム）」から先月２０日に発売された。発売３日で１０００万本、２週間で１８００万本の販売記録を打ち立てて６１億元（約１２２０億円）の売上を達成した。この傾向のまま行けば、今月内に２０００万本、年内には３０００万本の販売を達成する可能性が高いという見通しまで出ている。 悟空は中国が初めて作ったトリプルＡ級コンソールゲームだ。トリプルＡ級ゲームは莫大な資本と技術力を投じて作った大作ゲームのことを指す。中国プラットフォーム企業「テンセント」出身の開発者が作ったスタートアップ、ゲームサイエンスが６年間７５０億ウォンを投じて開発した。テンセントが持分投資などで資金援助をしている。 モバイルゲーム市場を主導してきた中国ゲーム業界は悟空の興行で製作難易度の高いコンソール市場でも競争力を示した。米国ＣＮＢＣ放送は「悟空は任天堂やＵｂｉｓｏｆｔ　、ＥＡなどで作るトリプルＡ級のコンソールゲームを中国でも作ることができるところを見せた」と評価した。 自国ゲームの興行に中国ゲーマーも熱狂している。現地メディアでは悟空の人気によってオフラインゲーム店舗のＰＳ５機器が売り切れ、コンピュータ仕様をアップグレードしようとする顧客が増加しているという報道が出ている。 「ゲームは精神的アヘン」としながら２０２１年から関連産業を強く規制してきた中国当局の態度も変わった。悟空の興行以降、ゲームの肯定的な面を印象づけている。中国外交部の毛寧報道官は「（悟空は）中国古典文学の傑作をベースに中国文化の魅力を表現した」と言及した。官営メディアも悟空に対して「伝統文化のブーム」「ゲーム産業の突破口」などの表現で力を与えている。悟空の興行を国内の民間経済の回復と海外中国ソフトパワー拡大の契機にしようとしているようだ。 一部ではこのような中国の「ゲーム崛起」が米国の牽制につながりかねないという観測が出ている。オーストラリアの非営利メディア「ザ・カンバセーション」は「悟空を前面に出した中国のゲーム産業強化は米中技術戦争（ｔｅｃｈ－ｗａｒ）につながるとみるべきだ」と指摘した。トリプルＡ級ゲームの高品質グラフィックを実現するには米中葛藤の核心要素の一つである先端半導体が必須であるためだ。まだ中国はゲームに必要な先端半導体を自分たちで製造する能力がない。 ザ・カンバセーションは「ゲーム産業が発達すれば高仕様チップに対する需要が大きくならざるをえない」とし「中国のゲームは単にソフトパワーを強化するだけにとどまらず、米国の半導体規制に対抗して中国のチップ製造力量を強化する『ハードパワー』の側面から見るべきだ」と分析した。 これに関連し、グラフィック処理装置（ＧＰＵ）業界１位である米国のエヌビディアが再び米国政府の規制ターゲットになる可能性がある。エヌビディアは悟空ゲーム発売当時「このゲームにはエヌビディアＲＴＸ　４０　ＧＰＵシリーズを基盤としたフルレイトレーシング、ＤＬＳＳ　３など最新グラフィック技術が適用された」と発表した。 米国政府は２０２２年８月からエヌビディアが最先端人工知能（ＡＩ）半導体を中国に輸出することを事実上基本的に遮断している。さらに、エヌビディアがこの規制を回避するために作ったダウングレードＡＩチップ「Ｂ２０」の対中輸出を阻止する方案も検討している。