あの東宝が新人発掘、育成⁉ 「リターンよりも投資」若手起用「GEMNIBUS」の本気度
オリジナル企画をゼロから立ち上げ
同レーベルがまず取り組んだのが、短編映画の製作だ。監督志望者から4人を抜てき。原作のないオリジナルの企画をゼロからプロデューサーと練り上げ、スタッフ、出演者は東宝の本番線と同様の座組みを用意した。「いきなり300館規模の作品では荷が重い。まずは小さめの打席での挑戦から」と、Youtubeなどでの限定公開を予定していたが「大スクリーンで」との後押しを受け、オムニバスの「GEMNIBUS」としてお披露目することになったというわけだ。 開発チームリーダー、馮年プロデューサーは、この試みを雑誌社の新人漫画家育成の取り組みと対比して、こう語る。「人気漫画家の担当編集者も、新人発掘に時間の半分を割くという。バッターボックスを用意して、チャンスをつかむ機会を与えている。映画は製作費も人手もかかるから、いっそう意識的に取り組まないと」。1作で終わらせず、〝その後〟も見据える。「一作ごとのリターンよりは才能に投資するつもり。ゆくゆくは一緒に、〝本線〟で公開できる娯楽大作を作ることが目標だ」 栢木琢也GEMSTONE Creative Label統括プロデューサーも「誰もが大ヒット作を作れるわけではない。だからこそ、多くの人と組んで作り続けていくことが重要だと思う。10年単位で何人か出てくれたらうれしい」と長期的視野を強調する。加えてGEMNIBUSはオリジナル作品にこだわるという。「ストーリーを作れることは監督にとってとても重要な能力だ。映画作りの基本は脚本で、〝ゼロから1を生み出す〟ことが最も難しい。だからこそ、オリジナルにこだわって作品を作りたいと考えているし、その才能を欲している」
まずは実績 企業の論理をはね返せ
「上層部も応援している」というプロジェクトだが、実は東宝が若手育成を図るのは初めてではない。1990年半ば、ぴあフィルムフェスティバルと組んで、新人を後押しする「YESレーベル」を創設した。橋口亮輔監督「渚のシンドバッド」(95年)、矢口史靖監督「ひみつの花園」(97年)と秀作を生み、両監督とも一線で活躍しているが、レーベルはその後続かなかった。意気込みはあっても、利潤追求の企業論理に立ち向かえるのだろうか。 このあたり、馮プロデューサーも先刻承知だ。「2、3年すると赤字と指摘され、撤退となりかねない」と認めた上で、「一人でもヒット監督が出れば、それが証明になる。今回の4人の〝2本目〟が重要だし、vol.2、vol.3がどこまで羽ばたけるかが指標。毎年続けるのが大事だ」。すでにvol.2の企画も動き出しているという。