あの東宝が新人発掘、育成⁉ 「リターンよりも投資」若手起用「GEMNIBUS」の本気度
「新人の発掘と育成を」――。日本映画界の長年の懸案に手を挙げたのが、あの東宝だというから驚いた。〝おいしい〟原作ものやテッパンIPの大作を、実績と経験を重ねた監督に任せるという盤石の体制で業界トップを独走。安全志向のオイシイとこ取り、とやっかみ半分の陰口も聞こえていたが、その東宝が「オリジナルの企画をヒットさせられる新人を育てる」と宣言し、最初の成果として6月28日、4人の新人監督のオムニバス「GEMNIBUS vol.1」が公開される。「リターンよりも未来への投資」と風呂敷を広げ、「vol.1」とあえて強調する本気モード。その意気込みやいかに。 【動画】東宝の若手社員たちが才能支援プロジェクトとして立ち上げた「GEMSTONE Creative Label」の劇場公開第一弾「GEMNIBUS vol.1」特報
撮影所システムの崩壊で育成の道険しく
新人育成は日本映画界の長年の課題だ。1970年代に映画会社が製作から手を引き始めるまでは、東宝を含む映画会社の撮影所で社員監督を育てる仕組みがあった。映画製作のイロハを徒弟制の中でたたき込まれ、毎週公開する新作を次々と作る中からあまたの傑作、名作が生まれてきた。小津安二郎も黒澤明も、山田洋次も大監督はそうして育ったのだ。 しかし映画界が斜陽化してから撮影所の人材育成機能が失われ、もっぱら自主製作やフリーの助監督として〝自主トレ〟するか、他業種からの参入に頼っている。〝新人監督の登竜門〟としてあまたの監督を輩出した「ぴあフィルムフェスティバル(PFF)」や、2005年に発足した東京芸術大大学院映像研究科、映像産業振興機構(VIPO)が2006年から取り組む「ndjc若手映画作家育成プロジェクト」など例はあるものの、背中を押して送り出すまで。その後の支援までは及ばず、結果的に〝勝手に育った才能の果実を製作側が摘み取る〟といった図式が定着している。自由で多彩な作品を生むことになった半面、総じて小粒。韓国のような世界に通用するエンタメ大作が生まれにくくなってしまった。
若手の声受けて新プロジェクト
ここ10年以上、興行成績においてぶっちぎりで他社を引き離す東宝も、その恩恵にあずかってきた。2023年は24作を配給し、日本映画の興収上位10本のうち8本、ヒットの目安となる興収10億円以上の18本に絡んだ。年間興収774億円は日本映画の総興収の3割以上。大作の企画はまず東宝に持ち込まれるのが当たり前、という状況だ。しかし、手がける作品は人気マンガやドラマの映画化が大半で、監督はヒットの実績があるか、演劇界やテレビ界で経験を積んだ中堅やベテランに限られていた。全国300スクリーン規模の公開作を新人には任せにくく、といって自前で育てるすべもなかった。 そうした中、「それでいいのか」と心配する声が東宝内部の若手から上がる。これを受け19年から「GEMSTONEクリエイターズオーディション」を開催、Youtubeを舞台に作品を公募した。21年にはTikTokと組んで「TikTok TOHO Film Festival」を開始し、23年には集英社と「東宝×ワールドメーカー短編映画コンテスト」を開催。多くの監督志望者との出会いを重ね、23年、「GEMSTONE Creative Label」を発足させた。社内の入社10年までの社員から部署横断で募集したプロデューサーで編成した、才能支援を目的としたチームだ。