元経産官僚が神山まるごと高専の校長になった訳 五十棲浩二「学生が主体的に挑戦できる環境を」
突然の校長職のオファーを決断したワケ
経済産業省の教育産業室長として「未来の教室」プロジェクトなどを主導してきた五十棲浩二氏。そのほか、私立聖光学院中学校高等学校の校長補佐や、不登校の生徒を支援する神奈川私学修学支援センターの立ち上げなど、さまざまな教育分野の改革に携わってきたキャリアの持ち主だ。そんな五十棲氏が2024年9月、神山まるごと高等専門学校(以下、神山まるごと高専)の校長に転身。その真意や同校の今後などについて聞いた。 【写真】経産省から転身、2024年9月から神山まるごと高専の新校長に就任した五十棲浩二氏 経済産業省の教育産業室長として教育改革を担ってきた五十棲浩二氏が、今年9月7日、徳島県神山町にある神山まるごと高専の校長に就任した。 同校は2023年4月に全寮制、デザイン・エンジニアリング学科の1コースのみ、1学年40名という形態で開校。「テクノロジー×デザイン×起業家精神」で社会変革をもたらす新たな人材育成を掲げ、企業からも大きな注目を集めている学校だ。学費は実質無償化されており、「スカラーシップパートナー」となるソニーグループやソフトバンクなど計11社から成る「一般社団法人神山まるごと奨学金基金」を組成し、運用益を学生に奨学金として給付する独自の仕組みを採る。 そんな注目の学校の校長職とはいえ、経産省を辞めての転身は本人にとっても一大決心だったのではないだろうか。今回、教育体制の強化を行う中でのバトンタッチとなる。五十棲氏が理事長の寺田親弘氏(Sansan創業者兼代表取締役社長)から声がかかったのは今春のこと。そのとき感じたことを、五十棲氏は次のように振り返る。 「シンプルに言って、この学校はすごく面白い。人口5000人に満たない神山町に、企業をはじめ社会との連携が活発に行われている高専がある。誰も発想したことがなかった学校です。しかも学費無償で、どんな環境に育った子どもであっても、意欲があればイノベーションの担い手になれると感じられる場ができたのです。10代の多くが『社会を変えられるとは思わない』と回答した調査結果もありますが、そんな日本の雰囲気を変える学校ではないかと感じましたし、このお誘いを受けないと後悔するなと思いました」 自身のキャリアもすべて生かせると感じた。五十棲氏は東京大学法学部を卒業後、2001年に経産省に入省。資源エネルギー庁、内閣府、環境省などを経て、2014年から官民交流制度により中高一貫校の私立聖光学院中学校高等学校に勤務。英語や現代社会の授業を担当するほか、校長補佐としてキャリア教育や国際化を進めた経験を持つ。 「経産省で企業や自治体、教育委員会などと仕事をしてきたほか、教員経験を含めて学校に7年勤務し、慶応SFCの大学院博士課程で研究する中でプログラミングやデータサイエンスなどにも触れてきました。こうした経験からさまざまな分野の方との共通言語を理解できる点も、多様なバックグラウンドを持つスタッフや学生と挑戦していくうえで生きるのではないかと思いました」(五十棲氏) 経産省の教育産業室長は任期付きの民間人採用であり、一定期間での経産省勤務の後には再び民間での活動も視野に入れていたため、数週間でオファーを受ける決断をした。家族も賛同し、単身赴任の形で9月初旬に神山町に移住。自然に恵まれた環境と、スタッフのエネルギーに満ちた空気感が印象的だという。 「すべてスタッフの皆さんがプロフェッショナルの立場から学校をつくろうとしています。官僚の仕事も面白かったですが、今のほうがより手触り感がありますね。自分たちで1つひとつプロジェクトをつくっていくことは、緊張感があるとともにワクワクします」(五十棲氏)