元経産官僚が神山まるごと高専の校長になった訳 五十棲浩二「学生が主体的に挑戦できる環境を」
「やっていることは大きな意味では一緒」
これまでの日本の公教育は、平等・公平の観点から「揃える学び」に重点が置かれてきた。それは日本の教育のすばらしい価値の1つだが、その一方で、「伸ばす学び」のサポートも必要ではないかと五十棲氏はつねづね考えてきたという。 「やりたいことが明確な子がいた場合、それが100人中5~10人くらいの割合だと税金で支援するのは難しく、家庭でやってくださいというのが現状です。つまり、日本の教育には『公助』と『自助』しかありません。しかし、これからは価値創造人材の育成も必要です。そこを『共助』によって支援できないかと、経産省では『未来の教室』プロジェクトを進める中で実証事業を行うほか、研究会を設けてエコシステムづくりの検討にも力を入れてきました」(五十棲氏) 立場は変わったが、「その思いや、やっていることは大きな意味では一緒だ」と五十棲氏は言う。 「学費無償化の仕組みなどのように、神山まるごと高専でのさまざまな取り組みが好事例となって公教育に貢献できることもあるでしょうし、民間の立場から応援できることもたくさんあると考えています。教育は長い時間のかかる取り組みであり、必ずしも役職が大事なのではなく、やっている内容が大事。もちろん、これまでの取り組みにおいてできなかった部分や反省点もありますが、引き続き1つひとつの事例をつくっていきたいと思っています」(五十棲氏) 現在、神山まるごと高専は開校して2年目。今年度は、経営体制を強化する目的で、五十棲氏のほかにも新たなメンバーが移住して参画している。 その1人が、今年4月に副校長に就任した鈴木敦子氏だ。 起業家型リーダーの育成を通じて社会の発展に寄与することを掲げるNPO法人ETIC.の立ち上げに携わり、約30年間、多くの起業家を支援してきた。 「今も『個人の起業家精神が発揮される社会づくり』というミッションは変わらないという感覚ですが、学校の業務は初めてで試行錯誤。多様な背景や価値観を持つ学生やスタッフと、新たなカルチャーを共につくっていく途上だなと感じているところです」と、鈴木氏は言う。 もう1人は、今年3月までデロイトトーマツコンサルティング執行役員だった田中義崇氏である。 企業として神山まるごと高専を支援していた縁をきっかけに、今年4月からパートナー兼寮のディレクターに就任した。 「この学校は、環境も人もカリキュラムも極めて恵まれています。その中で、学生が人生をかけてやりたいことを見出したり、その成長の加速度を最大化したりすることを『支援』と『応援』とのバランスを取って実現していくことが課題だと考えています」(田中氏)