バスケ実業団選手からラグビーに転向、3年で代表入り。村上愛梨が「好きだからでしかない」競技を続けられた原動力とは?
仕事との両立、多様性を尊重できる環境づくりも継続への第一歩
――村上さんは2019年にご自身のセクシャリティをTwitter(当時)上で公にされ、その後同性のパートナーがいることも公表されました。どんなことが決断を後押ししたのですか? 村上:2017年に加入した当時の監督がスティーブン・タイナマンというオーストラリア人で、その方がどんな生き方も否定することなく、すべてを受け入れてくれるような環境づくりをしてくれたんです。だからこそ、チームメートも自然な形で受け入れてくれたと思います。ただ、当時は「それをシェアしたら、自分もそう見られてしまう」という風潮はまだある時代でした。それから5年が経って、今は世の中がさらにオープンな形になっていると思います。 ――スポーツは多様性の発信拠点にもなっていると思いますが、現在はどのような形で発信を続けているのですか? 村上:「プライドハウス東京」という団体を通じて発信をしています。今は、アライ(LGBTQ+当事者の理解者や支援者)を増やそうという活動に力を入れていて、まずはアライアスリートを増やせれば、ということで、オリンピックを経験している選手に声をかけたり、競技の協会の代表の方などに研修をさせていただいています。そこで「いない」のではなく「見えていない」だけであること、知識をアップデートしていただけるように、当事者のライフストーリーや経験を知っていただけるように活動を続けています。 ――そのように、個人を尊重できる環境づくりも含めて、女子選手がスポーツを長く続けるためには他にどのようなことが課題だと思いますか? 村上:私がここまでスポーツを続けてこられたのは「好きだから」でしかないです。目標を達成できてもできなくても、それがすべてではないと思いますし、すべての過程を楽しめるようになればいいと思います。今の一番の課題は仕事との両立だと思います。ラグビーの場合、代表に選出されると長期の合宿や遠征があるので、職場の理解が必要です。働き方や契約内容も競技と両立しやすい内容だとありがたいのですが、現状はその働き方ができる選手が限られています。接触が多い競技なので、ケガのリスクを考えると40代以降は続けるのが簡単ではないと思いますが、個人のライフステージに合ったスポーツのクラブチームが増えれば女性も長くスポーツが続けられると思いますし、私もそういう場所や情報を提供できたらいいですね。 ――高校卒業後に女子競技の登録者数が減ってしまうという課題について、「KeepPlayingプロジェクト」への個人的な思いはありますか? 村上:スポーツを長く続けることは難しいことだと思います。だからこそ、「なぜ続けてこられたか」「なぜ続けていきたいか」などの例をこのプロジェクトを通じて共有することは、部活でスポーツをしている学生たちのモチベーションや目標にもなると思います。 ――最後に、ご自身のキャリアの展望を教えてください。 村上:3年前にラグビーのケガで検査をした時に、7cmの腫瘍が見つかりました。悪性の可能性が8割と言われましたが、摘出して検査した結果、良性でした。そういうこともあるので競技ができるのは40歳までかな、とふと考えることもありますが、もう10年ラグビーを続けられたら、とも考えます。身体が動く限り頑張りたいですね。 <了>