<大学ラグビー>V争いに無縁の早慶戦のジレンマ
早慶戦は、競技を問わず、学生スポーツのクラシコと謳われる。早大、慶大の在校生や卒業生が、自己投影などの目的でワンプレー、ワンプレーに嬌声、怒号を響かせる。 2014年11月23日。公式で「19304人」ものファンが、東京は秩父宮ラグビー場のスタンドを埋めた。関東大学ラグビー対抗戦Aにおける、ラグビーの早慶戦。この日は全国大学選手権を含めて100度目の対戦とあって、新聞紙上での戦前評もやや賑やかな印象を与えていた。 本番も、スコアの上では白熱した。互いにミスと反則を重ねるばたついた序盤を経て、中盤は両チームの主力格が持ち味を発揮する。 例えば前半27分である。夏に日本代表候補となったウイングの荻野岳志が、敵陣の10メートル付近を中央突破した。仲間が左、右と降った球を再びもらって、トライラインを割った。 「あまり、覚えてないですけど…。(たくさん)ボールタッチをする意識は、ありますね」 後半ロスタイムだ。勝ち越しを狙う慶大が、敵陣ゴール前右でラインアウトを得る。モールを組む。早大がそれを故意に崩すコラプシングの反則を犯す。慶大、再度、ラインアウトからのモール。早大、またもコラプシング。フランカーの木原健裕主将は、工藤隆太レフリーに残り時間を聞く。「ノータイム」。ペナルティーキックで得たマイボールをタッチラインの外に出さず、そのまま持って直進した。ここからモールを組もうと思った。が、それは叶わず、スコアできなかった。25-25。引き分けに終わり、慶大のリーダーは悔やんだ。 「モールでトライを取る。狙いはそこ。ラストワンプレーの時にコミュニケーションニスがあって、30秒あったと…」 現在、大学ラグビーの軸は帝京大だ。大学選手権5連覇中で、今季もすでに対抗戦の優勝を決めている。各クラブにとっての本当の標的はまさにこの王者で、慶大のフランカー木原主将も「打倒、帝京」。30日の秩父宮での直接対決に向け、強い決意を口にしていた。早大は11月2日の秩父宮で帝京大に11-55で屈している。直後の選手、スタッフは、もぬけの殻の顔つきだった。 帝京大が中心の小宇宙にあって、チケット入場料とNHKの中継が担保される「ビッグマッチ」の早慶戦に臨む。当事者はどんなモチベーションを持っているのか。ジレンマはないのか。両校の関係者ではない楕円球愛好家にとっては、それが素朴な疑問なのだ。