<大学ラグビー>V争いに無縁の早慶戦のジレンマ
答えは、これまでの伝統に依拠したものがほとんどだった。 まず早大の後藤禎和監督は、明大との早明戦を含めた「定期戦」の捉え方を示した。 「常々言っているのですが、定期戦は、順位がどうとかは関係ないゲームだと認識しています。腹の底からそう受け止めています」 慶大の和田康二監督も、同様の意見を述べる。 「慶應義塾にとっては大変、特別な試合です。きょうも試合前に塾長がロッカールームに激励に来てくださって…」 観客席の風景は、国内最高峰のトップリーグなどでは観られないものだった。一方のイージーな落球を観て、もう一方の贔屓筋が拍手する。得点したシーンに狂喜乱舞し、プレー再開後もグラウンドに背を向けて応援歌を叫ぶ…。選手の口からも、早慶戦を特別視する声が発せられる。「(早慶戦に向けては)自分たちのターゲットが帝京大だとは、誰も考えていなかった」。早大の強気なスクラムハーフ、岡田一平は率直に話した。 そう。ラグビーの早慶戦はラグビーの試合であると同時に、学歴社会などに基づく母校への肯定感によって作られた、「特別なもの」なのである。「単独の対抗戦優勝が絶たれた者同士の試合」「早慶戦は色褪せた」といった背景をいくら取り上げても、当事者にとってはのれんに腕押しの感すらある。 後半18分のインターセプトからのトライや再三のボール奪取で試合を締めた早大フランカー、布巻峻介副将のこの意見は、どうしても、少数派になるのだった。 「個人としては、対抗戦の試合の1つ。早慶戦という雰囲気は周りが作っているのだと思う。筑波大戦も、帝京大戦も、青山学大戦も大事だし。逆に、慶大だから、明大だから、と他とどう差をつけるのか、僕にはわからないです」 もっとも、今季の対抗戦の順位争いにおける早慶戦の意味合いが濃くなかったこともまた、事実ではある。そんななか、伝統的なゲームへの新しい捉え方も生まれつつある。それは、「弾み」としての効能を見出す発想だ。真剣勝負の舞台からは今季限りで身を引く、早大4年生のウイング荻野が示した。 「チームのやってきたことが確認でき、この先の弾みになるような試合にできればいいと思っていました」 12月からの大学選手権、特に、そこで帝京大と再戦する場合を想定。クラブの積み重ねを発揮し、課題を確認する…。外的な要因からプレッシャーのかかる早慶戦は、それをするのに最適な舞台だと捉えるのだ。 「次の早明戦も、弾みになるようにしたいです」 伝統の重みを尊重しつつ、現状に即した形で捉える。現代の選手にとっての早慶戦に対する気分は、こういうものになりつつあるのだろうか。 多様な価値判断によって守られる早慶戦。永続的に一定の入場者数が見込めるはずで、ある意味、ラグビーフットボールの魅力を対外的に伝える格好の舞台の1つではある。来季は、競技としての面白さがより発揮されたい。 (文責・向風見也/ラグビーライター)