イラクの戦場取材「フィクサー」は大学生 戦争と地続きの青春
命を預ける相手
フィクサーは、取材時のドライバーとセキュリティーの役目も務めるのが一般的で、いわば現地での「相棒」だ。彼らを雇うには1日500ドルから2000ドルほどかかる。ただこれは取材する場所によって異なり、もっと高い金額を要求されるケースもある。私のようなフリーランスのフォトグラファーにとってはとてつもない大金だが、命を預ける相手なのでケチるわけにはいかない。ここを安く済まそうとして信用の低いフィクサーを雇い、大けがを負ったり、敵対勢力に身柄を売られてしまったりした報道関係者も少なくない。 腕の良いフィクサーは、現場経験が豊富で、複数の言語に堪能であり、機転が利き、さまざまなネットワークを持つ。マジッドは英語、アラビア語、クルド語に堪能で、欧米の大手メディアと何度も仕事をしてきた。エルビルに滞在する欧米人ジャーナリストやフィクサーたちの間では誰もが知る存在だった。評判の良い信用のあるフィクサーというのは、それだけ多くのジャーナリストたちの取材を成功させ、無事に帰って来たことの証だ。
一瞬で兵士と打ち解ける
いつも険しい表情で、絶え間なく鳴るスマートフォンで各所への対応に追われるマジッドだが、現場に出て、地元の住人や軍・警察関係者と接する時はいつも笑顔だった。それが彼のフィクサーとして成功したテクニックの一つなのだろう。 モスルの町にたどり着くには、当時おそらく30以上の軍の検問所を突破する必要があった。数百メートル、数キロごとに完全武装のペシュメルガ(クルド人部隊)とイラク軍に止められ、身元を照会された。許可証を持っていなければジャーナリストだろうがなんだろうが、問答無用で追い返される。しかしマジッドが笑顔で運転席から兵士たちに挨拶をすると、彼らは緊張を解いて笑顔になり、友達同士のように和やかに会話を始める。検問所の兵士たちとタバコを交換し合ったり、時には紅茶をご馳走になったりすることもあった。 助手席に日本人が座っていると分かると、兵士たちは興味津々に話しかけてきた。「お前はジャッキー・チェンか?」。みんなしてカンフーのポーズを取ってくることもあった。そのうちに、毎日同じ道をほぼ顔パス状態で通過すると顔を覚えてくれて、笑顔で挨拶する仲になった。彼が軍や警察関係者からも信頼を得ているのが分かる瞬間だった。軍や警察の中でも存在が知られているのは、何かあった時に命に関わるのでありがたい。