イラクの戦場取材「フィクサー」は大学生 戦争と地続きの青春
新聞や雑誌、テレビの報道番組で目にする紛争地域の写真や映像。それらはジャーナリストや写真家たちによって撮られたものがほとんどだが、危険と混乱を極める異国の地でなぜ撮影が可能なのか、疑問に思う読者もいるかもしれない。写真や映像につくクレジットは撮影者のものだけだが、それを可能にする裏側には決して欠くことのできない人々の存在がある。(フォトグラファー・鈴木雄介)
フィクサーと待ち合わせ
シリアやイラクなど地球上で最も危ない地域とされる場所で取材を行うには近年、現地人の協力が欠かせない。取材対象地域の情勢やそこに住む人々を知り、常に最新の情報を手に入れ、警察や軍にネットワークを持ち、私たちのような外国メディアが安全に前線にたどり着いて取材できるようにアレンジしてくれる。彼らは「フィクサー」と呼ばれる。
私は昨年、過激派組織「イスラム国」(IS)との戦いを取材するために、イラク北部のクルディスタンの首都エルビルという街に降り立った。目指すはイラク第2の都市モスルだ。当時ISがイラクにおける「首都」と呼んでいたモスルは、イラク軍・有志連合軍が共同で奪還作戦を行っていた。 知り合いのジャーナリストたちの情報で、あるフィクサーとコンタクトを取り、カフェで落ち合うことになった。地獄のような暑さがまだ訪れる前の4月のイラク。砂糖のたっぷり入ったチャイを飲みながらテラスの席で待っていると、目の前に突然若い男がドカっと勢いよく腰を下ろした。男はジーンズにラフなTシャツ、アーミーブーツを履き、両腕に包帯を巻いていた。
抉られた両腕の傷跡
短髪でヒゲを生やした精悍な顔つきの若者はマジッドと名乗った。お互いの自己紹介を手短に済ませると、私たちは早速本題に入った。今回、私が何を撮りたいのか。自分の目的を伝えると、彼は現地の詳細な戦況、取材可能な対象や地域を細かく説明し、何日かけて取材をするかスケジュールの目安を立てた。 ウェイターのシリア人が水タバコを運んできた。レモンミント味の煙を吸いながら彼の両腕に巻かれた包帯について尋ねた。「CNNと一緒に前線を取材していた時に、迫撃砲が近くに落ちたんだ。咄嗟に両腕で頭を守って間一髪で助かった」。包帯を解いた彼の腕には、砲弾の破片で抉(えぐ)られた生々しい傷跡が残っていた。