60年以上新規参入を阻む壁を越えたい――秋田で新たな酒造りに挑む九州男児の挑戦
2020年3月に直販限定で出した第1弾の委託醸造酒(720ml、3300円)は、800本が即完売した。この反響に全国の酒販店から問い合わせが殺到。岡住は、このうち30店舗ほどと通年での販売協力をうたう「誓約書」を交わす。同年7月の委託醸造酒第2弾800本、翌年3月の第3弾2000本も完売。これが、「商品力」として金融機関へのプレゼンテーションで威力を発揮する。 「最初は3000万円くらいかな」と思っていた岡住に対し、秋田銀行と日本政策金融公庫は無担保で2億1100万円の融資を決定。これで醸造所開設への道筋ができた。 「商品力が評価されたこともありますが、『地域を活性化してほしい』という期待も強く感じました」
シャッターの下りた街で決意した起業
秋田県の人口は2013年以降、毎年1万3000人超のペースで減り続け、2017年には100万人を割り込んだ。最盛期には人口6万人ほどだった男鹿市も例に漏れず、いまや人口は2万5000人ほどだ(22年3月末時点)。 全盛期には年間180万人ほどの乗降者を数えた男鹿駅も、いまや年間10万人、1日平均は300人に満たない規模に。周辺はシャッターの下りたままの店舗が目立つ。 岡住も、必ずしも男鹿で起業しようとは考えていなかった。県内を巡り、理想の場所を探し続けていた。 「最初は『ほかの市町村でやろうかなとも思ってる、悩んでる』と話してました」 そう振り返るのは、男鹿市役所男鹿まるごと売込課の池田徹也だ。池田は迷える岡住とともに男鹿市全域を巡り、空き店舗や廃校になった小学校の校舎などを案内して回った。そんななか、JR男鹿駅の旧駅舎が利用できるかもしれないという話が舞い込む。岡住は言う。
「目の前は確かに『シャッター商店街』でしたが、逆に醸造所を起点に街づくりできたら面白い、チャンスだと思いましたね。『シムシティ』みたいでしょ」 男鹿市長の菅原広二(70)も、岡住に期待を寄せる一人だ。 「彼がやろうとしてることは地域づくり。男鹿に骨を埋めて、男鹿を元気にしたいんだと。行政としても、やる気のある企業を支援していけば、地域にそのいい気が伝わってくる。そういう流れだと思ってますから、市役所のネットワークも駆使して、できることは支援していきたい。岡住さんには、お金以外でできることは何でもサポートすると伝えています。何か相談があればすぐ直接LINEが来ますよ」