【視点】低下するメディアの影響力
「職員へのパワハラがあった」などと主要メディアの猛バッシングを受け、県議会で全会一致の不信任決議を可決され失職した知事が予想外のカムバックを果たした。主要メディアを上回るSNSの威力を見せつけた、過去に類例のない選挙だったと言える。 兵庫県知事選は無所属の前職、斎藤元彦氏が、元尼崎市長ら新人6人を破って再選を決めた。 この選挙の発端は、同県の幹部が斎藤氏のパワハラや不正疑惑を告発する文書を報道機関などに送付したことだ。 県幹部は県の公益通報制度も利用したが、県は県幹部の行為を保護対象となる公益通報とみなさず、県幹部を停職3カ月の懲戒処分とした。 この問題を巡り、県議会は百条委員会を設置した。だが県幹部は予定されていた証言の前に自ら命を絶ったとされ、報道は「パワハラが自殺を招いた」と斎藤氏への批判一色になった。 斎藤氏が失職し、出直し知事選に出馬する意向を示した際、斎藤氏に対する世論の風当たりは厳しく、再選は絶望的との見方が大勢だった。 状況が一変したのは「NHKから国民を守る党」党首の立花孝志氏がSNSでパワハラ疑惑に関する独自の情報発信を行い「斎藤氏を支援する」という異例の理由で知事選に立候補表明した前後からだ。 元県幹部が死亡した理由がパワハラではなく、個人的なスキャンダルを苦にした可能性があり、それを県議会や主要メディアが隠蔽して斎藤氏を陥れた、という説がSNSを通じて広がった。 選挙戦は当初、組織票を背景にした元尼崎市長が優位と見られたが、ふたを開けると「改革派の斎藤氏対既得権益」という対立の構図が有権者に浸透していた。 選挙期間中のSNSを見ると、特に目立ったのが「斎藤氏を不利にする偏向報道が行われた」と主要メディアへの不信感を訴える書き込みだ。 主要メディアの一方的なバッシング報道にもかかわらず選挙で勝利したのは、直近では米大統領選でのトランプ氏の例がある。組織票に頼らず、SNSで急速に支持を拡大した候補者としては、東京都知事選の石丸伸二氏が記憶に新しい。 メディアの報道が主な情報源だった過去の選挙からは、全く考えられない新たな潮流だ。有権者が報道を鵜呑みにせず、SNSを参考に、情報を取捨選択する時代に突入したことを示している。 むしろSNSで発信される情報こそ、今や有権者の主要な判断材料と言っていいのかも知れない。選挙結果を見ると若者だけでなく、相当数の高齢者もSNSを参考にしていることは間違いない。最近の選挙は、メディアの影響力低下を顕著に示している。 特に、世論を一定方向に誘導するように見える報道はSNSで公然と疑問視され、厳しい検証にさらされるようになった。かつてないほど報道の公平性や客観性が問われる時代になったと言える。 米大統領選の時も感じたが、メディアのあり方も今後、大きく変わらざるを得ないだろう。