能力や勤勉さで劣っているわけではない…日本人の「労働生産性」がG7でぶっちぎりの最下位になった根本原因
■「世界第2の経済大国」の陰に隠れていた大問題 それでも、高度成長期には人口増加に伴って経済全体の規模も拡大を続けたため、各企業や組織が自前の仕組みや設備で個別に自己完結していても、その総和がプラスであれば経済全体が成長し、「一億総中流」と呼ばれたように多くの国民も成長の果実を享受している実感することができた。 つまり、「世界第2の経済大国」というステータスの陰に隠れて、1人当たり付加価値の低さは正面から問題視されてこなかったのだ。 しかし、日本の人口減少傾向が明らかになってきた局面では、こうした継続的な市場拡大の前提が崩れる。バブル経済崩壊以降はOECD加盟国内で1人当たり付加価値の順位が下降線をたどり、さらにここ数年は、毎年順位が下がり続け、先述のように2022年には過去最低の31位となった。 主要7カ国(G7)の中では圧倒的な最下位であり、お隣の韓国にも抜かれ、今やOECD加盟38カ国の「下から数える」ほうが早い位置になっている(図表2参照)。 ■人口増加をあてにした成長 なぜ、日本の1人当たり付加価値の国際的な順位は「底割れ」するまでになってしまったのか。一人ひとりの日本人の能力や勤勉さが、過去数十年の間に他国に比べて著しく劣化したとは考えにくい。 実は、この期間に日本企業の経営のあり方に根本的な変化があったのだ。こうした変化の背景には、人口減少予測とそれに由来する「成長期待の低下」がある。 多くの日本企業は、高度経済成長期以来、人口増加に伴う市場拡大を前提にして、「いかに良いモノをより安く大量に供給できるか」を競いながら成長してきた。つまり、人口増加に伴う需要増が成長の源泉だった。
■だから日本でイノベーションは起きない こうした「成功体験」の裏返しとして、1990年代後半以降、日本の人口減少傾向が明らかになると、多くの企業が「今後市場が縮小する」との予測の下に日本国内での投資を抑制し、より成長が見込める海外展開に経営資源をシフトさせてきた。 いわば、国内市場に対する成長期待が著しく低下したのである。その結果、企業は、製造設備などのモノへの投資だけでなく、日本国内でのヒトへの投資(=賃上げ)も抑え込んできたのだ。 本来であれば、企業の積極的な投資が新たな市場を開拓し、それに呼応して個人の旺盛な消費が新たな市場をより一層拡大させる。これが経済を回転させるエネルギーとなる。ところが人口減少を目の前にして多くの企業が「守り」に入った結果、企業も個人も経済活動を委縮させてしまい、新たな市場やこれまでにない付加価値を創出するようなイノベーションは起こりづらくなっていった。 人口減少そのものというよりも、むしろ「今後の人口減少予測」に由来する成長期待の低下が、「空気」のように日本全体を覆い尽くした。その結果、企業の投資を起点とする「将来に向けた市場の創出」に自己抑制がかかり、ヒト・モノ・カネの動きが著しく停滞してしまったのだ。 今の日本に求められているのは、こうした「空気」を変えるために長年続いてきた構造的な特質に目を向け、そこに立ちはだかる様々な「壁」を乗り越えて、人口減少下でも1人当たり付加価値を向上させ得る新たな成長戦略を打ち出すことである。 ■人口減少下で成長する企業に求められる戦略軸とは では、これから日本企業が国内の成熟市場で成長するすべはあるのだろうか。 そこで柱となる要素が「頻度」と「価格」である。 企業活動に即して説明すると、売り上げは「価格×数量」で決まる。そして、数量は「人数×頻度」に分解できるので、「売り上げ=価格×人数×頻度」(図表6参照)となる。 人口増加局面であれば、人数(顧客数)が増えれば、頻度や価格を増やさなくても売り上げが伸びて成長できた。しかし、「人数」の増加が期待できない人口減少局面に成長を続けるには、「人数」に依存する発想を転換して「頻度」あるいは「価格」を上げることが重要になる。 つまり、「良いモノをより安く、多くの人に売る」ことを是とした時代から、「良いモノをより高く、繰り返し使ってくれる人に売る」ことを目指す時代に、企業の成長戦略の基軸が大きくシフトしつつあるのだ。