住宅ローンの繰り上げ返済はやめたほうがいい? 銀行員が事例をもとにデメリットなどを解説!
繰り上げ返済のデメリットは、手数料などの費用がかかる場合があること
ただし、住宅ローンの繰り上げ返済では、返済手数料などの費用が発生する可能性がある点がデメリットです。 もっとも、最近の銀行では店頭で手続きする場合とネット経由(無料なところも)の場合とで手数料の差別化を図るなど多様化していますので、一概にデメリットといい切れないかもしれません。
「繰り上げ返済しないほうがいい」3つの理由とは
ネット記事などでも「住宅ローンは繰り上げ返済をしたほうがいいのか」といった記事や見出しは数え切れないくらい見かけ、それだけ多くの人が気になり、悩んでいることがわかります。 では実際のところ、繰り上げ返済はしない方がいいのでしょうか? 考えられる理由を3つ、銀行員としての考えも加えて説明します。 繰り上げ返済しないほうがいい理由は? 1、住宅ローン控除を活かせなくなる 2、団体信用生命保険のメリットを手放すことになる 3、将来の出費に備えなければいけない 1、住宅ローン減税を活かせなくなる 1つ目は、住宅ローン控除を活かせなくなる人は、繰り上げ返済をしないほうがいいというものです。 住宅ローン減税(住宅ローン控除とも呼ばれ、正式には「所得税の特定増改築等住宅借入金等特別控除」という)は、自宅のために住宅ローンを借りた人が一定期間(*最長13年)の間、その年の住宅ローン年末残高に対して一定の比率(*0.7%)を所得税から控除してくれる制度です(*は2024年現行制度)。 会社員なら月給から源泉徴収されていた所得税が年末調整で戻って来るので、私も住宅ローン減税が適用されていた時期は、年末の給料が楽しみでした。 住宅ローン減税を受ける条件に「住宅ローンの返済期間が10年以上あること」というものがありますが、繰り上げ返済でローンの返済期間を短縮し過ぎてしまうと、住宅ローン減税が受けられなくなる可能性があるのです。 一方、住宅ローンでは、繰り上げ返済は早いほど利息軽減効果があります。たとえば利息軽減の計算で用いた、 【例・当初借入5,000万円・30年返済・金利は0.3%、期間短縮型で回数を減らす】 では、100万円を15年目に繰り上げ返済をした場合に軽減される利息は▲44,948円でしたが、同じ100万円を5年目に繰り上げ返済した場合には、▲76,742円で31,794円も利息軽減効果が大きくなるのです。 このように、早く繰り上げ返済したほうが効果は大きいわけですが、だからといって住宅ローン控除を受けられなくなるまで繰り上げ返済を急ぐのはおすすめできません。 2、団体信用生命保険のメリットを手放すことになる 2つ目は、死亡時などにローン全額を払ってくれる団体信用保険のメリットを手放すことになるという理由です。 団体信用生命保険は、住宅ローンを借りている人が自動的に加入することになっている生命保険で、死亡や高度障害、あるいは最近ならがん・成人病など特定の状態になると保険金が支払われて、その時点の住宅ローン全額が完済できる仕組みです。 ただし、繰り上げ返済で返済期間を短縮した場合は、短縮した年数だけ団体信用生命保険の年数も短縮されます。これは、保険料を無駄に払うことにはなりません(住宅ローン毎月返済の利息の中に保険料が含まれているため)が、団信のメリットを手放すことになります。 銀行の現場で、繰り上げ返済するか悩んでいるお客様には、 「私も住宅ローンを借りていますが、死んだらチャラになる生命保険付きの借金(住宅ローン)を、自分のお金を減らしてまで、無理して早く返すことはないと自分では考えています」 と、私自身の考え方を交えて説明して考えるヒントにしてもらっていますが、この説明を聞いて繰り上げ返済を思いとどまったお客様も多くいらっしゃいました。 3、将来の出費に備えなければいけない 3つ目は、将来必要になるお金(学費や車の買い替え、あるいは家のリフォームなど)は人それぞれで、しかも確実に予想できない部分もあるので、そうした高額な出費のためになるべく備えておくべきで、急いで住宅ローンを繰り上げ返済はしないほうがいいというものです。 住宅ローンの繰り上げ返済をすれば利息が減るなどのメリットがある一方で、一度繰り上げ返済してしまえば、手元にあったお金は当然ながら減ってしまいます。 そのため、将来への備えが少なくなるようでは、一つのメリットを得ても、別のデメリットを抱えてしまうかもしれないのです。 ただ、将来の出費に備えるお金が全額住宅ローン繰り上げ返済に回るとも限りませんので、賛成でも反対でもなく、銀行員としては「人それぞれなので、自分で考えるべきだ」と思います。 【コラム】銀行員の経験談:「繰り上げ返済を取り消して!」と言われても、どうすることもできなかったお客様 これは私が実際に対応したお客様の事例です。住宅ローンを借りている40代前半のお客様で、500万円を繰り上げ返済したいという依頼でした。 銀行員として繰り上げ返済のメリット・デメリットなど上述した内容を説明し、慎重に考えるよう促しましたが、お客様の意志は固くご要望に沿って繰り上げ返済をしました。 しかし、後日に再度来店され「このあいだの繰り上げ返済を取り消して、お金を戻してほしい!」と依頼されたのです。 お話を伺ってみると、繰り上げ返済もお客様にとって大きなお金だったので、もういちど将来の備えなどを考えたとき急に不安が広がり、やはりお金を手元に置いておきたいと気持ちが変わったとのことでした。 しかしながら、銀行では一度繰り上げ返済をしてしまうと、ローンの仕組み的に取り消すことは不可能でした。 もちろん、なんとかできないか、上司や本社も巻き込んでシステム面の変更まで議論し、なんとかお客様の要望に応えようとしたのですが、やはりどうすることもできなかったのです。 このお客様には、繰り上げ返済の依頼があったときから何度も慎重に考えるべきだと説明していたので、お客様も最終的には納得して、というより諦めてくださいました。 私も説明は尽くしたとはいえ、人によっては自問自答して考えが変わることもあると強く感じた経験で、こちらのケースも繰り上げ返済を急いでいる様子のお客様に、一つの体験談としてお話しすることがあります。