米国本社も驚かせた巧みな出店戦略 日本マクドナルド創業者、藤田田氏はここまで見通していた
■ マクドナルドの成功要因は「柔軟なローカライゼーション」 ──著書では、マクドナルドが日本進出時、米国のように郊外に出店するのではなく、あえて都心の一等地に1号店を出店したことに触れています。こうした判断には、どのような狙いがあったのでしょうか。 中澤 外資系企業が成功を収めるためには、柔軟なローカライゼーションが欠かせません。綿密なマニュアルと完璧なオペレーションをもってしても、アメリカ生まれのハンバーガーレストランをそのまま日本人が受け入れることはなかったでしょう。マクドナルドが成功した背景には、創業者・藤田田氏の手腕がありました。 藤田氏は、「1にロケーション、2にロケーション」と言い、出店する立地に強いこだわりを持っていました。そして、アメリカ本社の「郊外にドライブイン方式で出店すべき」という意見に反対し、東京都心の銀座三越1階に出店することを主張したのです。 アメリカ本社は「庶民の食べ物であるハンバーガー店を、なぜ高級店が並ぶエリアに出店するのか」と訝(いぶか)りました。しかし、藤田氏は銀座に出店することで話題性を演出し、庶民に受け入れられるようになった段階で郊外に展開した方がよい、と考えたのです。 例えば、銀座4丁目に出店すれば、徒歩で訪れる学生などの若者も気軽に入店できます。また、その場でマクドナルドのハンバーガーを食べてもらえなくても、地方からの旅行客や修学旅行生の目に留まり、認知してもらうことができます。そして、その人たちが何年後かに住むエリアにマクドナルドが出店した際、「銀座で見た店だ」とすぐ分かり「行ってみよう」と思ってもらえるだろう、と考えたのです。 ──藤田氏の戦略は見事に当たったわけですね。 中澤 ええ、大当たりでした。1971年に出店したマクドナルド1号店には、次々と若者がやってくるようになり、後に出店した店舗にも大きな影響を与えました。 これに驚いたのがアメリカ本社でした。彼らは日本の発想を逆輸入して、郊外にドライブイン方式で出店する方針を転換し、ニューヨークのマンハッタン、ロンドン、パリといった都市部に出店を進めました。こうして自動車だけでなく、歩行者を呼び込む戦略を採るようになったのです。 マクドナルドの新たな出店戦略は、世界中で大当たりしました。この事例から、藤田氏のビジネスに関する先見性、ローカライゼーションの大切さがよく分かるのではないでしょうか。
三上 佳大