米国本社も驚かせた巧みな出店戦略 日本マクドナルド創業者、藤田田氏はここまで見通していた
中澤 外資系企業では、従業員の採用は「必要な部署」に「必要なスキルを持った人」を「必要な人数」「必要なタイミング」だけ行います。そのため、新卒一括採用は実施せず、中途採用が当然とされています。定年制度もありませんから、スキルのある優秀な人材なら60歳でも70歳でも現場で働けます。 日本の悪しき慣習は、グローバルスタンダードとはまったく相いれないものです。この慣習をやめなければ、日本の優秀な若者は早晩、海外に出ていくでしょう。人口減少のトレンドに入っている日本で若者がいなくなれば、日本経済はますます衰退の一途をたどるに違いありません。 ■ 人材不足に陥らないマクドナルドを支える「独自の役職制度」 ──著書では、日本企業が学ぶべき外資系企業の一例として、マクドナルドの経営手法について解説しています。日本では小売業や飲食業をはじめ、多くの企業が人材不足に悩まされていますが、マクドナルドではそうした課題に直面していないのでしょうか。 中澤 マクドナルドでは、徹底的に作り込まれたマニュアルを用いてクルー(店舗スタッフ)の教育を行ったり、全日制のトレーニングセンターである「ハンバーガー大学」で人材育成を行ったりと、さまざまな人事施策に取り組んでいます。 マニュアルに関しては、全てのメニューの調理と提供過程を8つのステップに細分化して教えている点が特徴的で、分厚いマニュアル本には製造業務、清掃業務、サービス業務に関する約2万5000項目が記載されています。併せて、マニュアルの内容を完璧に遂行するオペレーションの教育にも力を入れています。 マクドナルドは世界100カ国以上、4万店舗以上の店舗で、常に同じおいしさ、同じサービス、同じ清潔さを実現しなければなりません。これはマニュアルとオペレーションなくしては実現できないため、その取り組みは徹底されています。 ──ハンバーガー大学とは、どのような機関なのでしょうか。 中澤 ハンバーガー大学は1961年に初めて設立された施設で、その名の通り、ハンバーガー作りのあらゆる知識と技術の習得を支援しています。 商品や店舗設備に関する知識取得のみならず、マーケティングやストアオペレーションといった分野に至るまで、全6コースが用意されており、このうち上級コースを修了した社員には「ハンバーガー修士」という称号が贈られます。 ハンバーガー大学は世界9カ国に存在しており、日本のハンバーガー大学は世界で2番目に古い歴史を持っています。1971年5月に開校し、同年7月には日本のマクドナルド第1号店がオープンしました。つまり、日本マクドナルドは1号店をオープンする前にハンバーガー大学を設立し、1期生を育て上げ、彼らを1号店に送り込んだわけです。 ──学びの機会を充実させた上で、マニュアルを徹底活用した店舗運営をしているわけですね。 中澤 その通りです。ただし、マクドナルドはマニュアルがなければ何もできない「マニュアル人間」を育てようとしているわけではありません。マニュアルはあくまでも指針であり、日々の店舗経営における経費の管理や人事に関しては店長に一任されています。店長が自分の判断で問題解決できる仕組みを整えると店長のやる気が出ますし、それが売り上げにも表れるからです。 加えて、マクドナルドではアルバイトと社員の中間にあたる職位を指す「スウィング・マネージャー制度」を用意しています。スウィング・マネージャーは時給で働くスタッフを指しますが、役職手当を付けた上で、社員が担う重要な業務の一部を担います。店舗運営の効率化と業績向上のためには「1店舗あたりの正社員をいかに減らすか」が鍵になるため、スウィング・マネージャーの育成が重要な意味を持つのです。 私は、この制度を転職先のディズニーストアやケンタッキー・フライドチキンにも導入することで、人件費の大幅削減と社員の労務環境改善を実現しました。こうした人材教育と役職設計の工夫により、店長の負担を軽減したり、十分に力を発揮できる環境づくりを進めたりすることは、今後の日本企業にとっても重要だと考えています。