岐阜なのに“やまがた”!? 小さな山里からの手紙、『やまがた旅図鑑』発行/岐阜
■集落を守り、盛り上げていくための冊子作り 4月末、フリーマガジン『やまがた旅図鑑』が発行された。「やまがた」といっても東北ではない。岐阜県の真ん中あたりに位置する山県市のことだ。本冊子では、ちょうど関市と本巣市の山間の町、神崎集落を中心とした山県北部を紹介している。車さえあれば岐阜駅へ45分ほど、名古屋へも1時間30分から2時間程度でアクセスできる街に近い田舎町で、美しい自然に恵まれ山林資源も豊富。しかし林業の衰退と、近年の少子化や過疎化による人口減少により、地域が成り立っていかなくなるのでは、と懸念されている。 「都市的地域」でも「平地農業地域」でもない「中山間地域」が、国土のおよそ3分の2を占める日本。現在、中山間地域には6万2000余りの集落があり、多かれ少なかれ地域存続の危機に直面しているわけで、つまり、本冊子の舞台である山県北部は、現在の日本においてはごくありふれた集落の一つといえよう。ちなみにこれまでに1300もの集落が、消滅しているという…。 ■若い世代の地域おこし協力隊員が活躍 「地域おこし協力隊員を募集します!」。そんな告知を身の回りで目にしたことがある人もいるのではないだろうか。過疎地域の集落が都市生活者を受け入れ、地域支援活動をしてもらいながらIターンを促進しようという地方の市町村の取り組みで、2008年に総務省が導入した「集落支援員制度」と同時期に始まった。それまでは無償で集落の維持に尽力していたボランティアに報酬が支払われるようになったことは画期的で、山県北部にも現在、10名近くの協力隊員が存在する。この『やまがた旅図鑑』も、そんな彼らを中心に集落を盛り上げようと制作されたものだ。
■無料でもクオリティーは高く。つい手に取りたくなる一冊に 東京一極集中などの問題を依然、課題として残しつつも、大都市にこだわらず「地方」に目を向け、仕事や暮らしの拠点を置いて活躍する人が、若い世代を中心に目立つようになった。そんな背景もあってか、各地発のフリーマガジンを目にする機会が増えている。リトルプレスやZINEなど、作り手の温度を感じさせる小冊子の品揃えとセレクトに定評のある名古屋の書店「ON READING」の店主・黒田さんに、『やまがた旅図鑑』について聞いた。「デザインも写真もきれいで、つい手に取りたくなる一冊ですね。今の世の中を見渡してどんな形で作れば読者に届くか、きちんと考えられていて。リトルプレスやフリーマガジンってそれがちゃんとできる作り手が意外に少ない。何より、“やまがた”という地名が見た人の頭にインプットされるだけでもすごく意味があることですよね」 ■自然や人とつながった、ありのままのていねいな暮らし 全62ページにわたって山県市北部エリアの人々と地域とのつながり、また次の世代へつなげていきたいことが、ていねいにつづられていく。ページをめくっても、「過疎に悩む地域」という印象を特別には感じないかもしれない。伝統の連柿が連なるオレンジ色の風景に心を奪われたり、山の自然や神崎川の清流の美しさに癒される人もいるだろう。田舎暮らしに憧れているならば、幸せに微笑む若い家族がまぶしく映るかもしれない。食べることにこだわりがあれば、農家レストランで味わえる郷土料理の数々が気になることだろう。どのページからも浮かび上がってくるのは、自分の住む土地や役割を大事にしながら、四季の自然やその恵みに感謝し、周りの人と助け合いながら暮らす、ありのままの日常。ささやかだけど確かな「つながり」がいくつも見えてくる。