岐阜なのに“やまがた”!? 小さな山里からの手紙、『やまがた旅図鑑』発行/岐阜
■目指したのは山県の人自身が主役の、故郷を誇れる一冊 企画・編集・デザインを担当したのは、「食」をメディアに多角的なデザインの仕事を手掛ける、オイシイワークス代表の佐藤実紗さん。名古屋を拠点に活躍する佐藤さんと山県との出会いは2013年のこと。イベントのPRのためチラシやノベルティグッズの制作を手掛けたことをきっかけに、昨年5月には『やまがた旅手帖』という全14ページの小冊子を制作。 「私の目で見て気になった山県北部の場所やモノを紹介した冊子で、喜んではもらったのですが…。地域を盛り上げるためには、表面に見えるものをいい感じで紹介する、だけではダメなんです。それに気づいたので、今回は人の魅力がきちんと伝わるもの、山県の人たち自身が主役になる本にしよう、という思いで作りました」 『やまがた旅手帖』を作ったつながりから、郷土料理のレストラン「おんせぇよぉ~」にも関わることになり、さらには今回の『やまがた旅図鑑』の制作が実現したという。 制作期間約2カ月のうち、3日に一度は名古屋から山県へ出かけていたという佐藤さん。実際に地域おこしを外部の者が手伝う場合、住民たちの思いにどれだけ寄り添えるかが何よりも大事になってくる。何度も通って、集落に入り込むように作るという形がどうしても必要だったのだろう。 「本を作ることが目的ではなく、完成したこの本をきっかけに何ができるか、を山県の人それぞれで考えてもらわないと意味がない。だから私ではなく彼ら自身の手でこの本を配ってほしいし、手渡した先の人にとっての山県の案内人になってほしい」つまりこの一冊は山県に住む人たちの名刺なのだ。 ■小さな山里の一冊が、日本の未来に語りかけるものとは? 「読み物として広がりがあっておもしろいですし、山県のことを語っていながら、誰しもの眠っていた自分の遠い記憶、故郷のことを呼び起こすような普遍性がちゃんとありますよね。この先、ローカルで何かをしよう、という人の背中を押すような一冊になっているんじゃないかと」と、ON READINGの黒田さん。 地域おこしや町づくりは、非常に難しいとされる取り組みだ。お金も時間も人手も要し、いくら志が高くても努力をしたからといってすぐに結果が出るものではない。それでも人が安心に包まれた幸福な暮らしを願うとき、自分のルーツとなる「故郷」は近くにあっても遠くにいても、守られるべきではないだろうか。もちろんすべての過疎地が守られるべきかどうかについては、まだまだ議論が必要だとしても。 都会に住む者にとっても決して他人ごとではない。山里破壊による環境への悪影響はもとより、都市の高齢化のスピードは中山間地域さえ上回ると指摘されることもあるほどだ。都市もまた、高齢化問題においては先を行く農山村と手を取り合って、多くを学ばねばならない。 小さくなっていく山県北部集落の「哀愁と希望の入り混じる想いがそのまま伝われば」と編集の佐藤さんは言う。その哀愁と希望の先に何を見たいのか、というのは山県の人たちだけではなく、日本の誰もが見つけたり考えたりしていくべきこと。それをあきらめてしまえば、私たちの未来から色合いが失われてしまうかもしれない。そう、『やまがた旅図鑑』は、山県という小さな山里からの手紙でもあるのだ。 文/編集プロダクションエディマート 大塚亜依 写真/黒元雅史 <information> 『やまがた旅図鑑』の発行を記念して、オイシイワークスアトリエにてワークショップ「EAT LOCAL」を開催。 5月24日(土)「BOTTLE FOOD(風土)」 5月25日(日)「山をたべるおやつ-岐阜・山県-」 6月7日(土)【トークイベント】「EAT LOCAL-地方におけるフードデザイン-」 5月17(土)~19日(月)【PHOTO EXHIBITION やまがた旅図鑑】 『やまがた旅図鑑』の写真を手掛ける写真家・黒元雅史氏の写真展 冊子の問い合わせ、ワークショップの詳細・申し込みはオイシイワークスまで。