医師を射殺し立てこもった男は、前日に死んだ母親の蘇生に固執した。根拠は30年近く前のテレビ情報。「72時間以内なら脳機能は生きている」
事件前日の2022年1月26日、母親が死亡する。かかりつけだったクリニックの男性医師が死亡確認に当たった。その際、男は蘇生措置を依頼する。強心剤が投与されたが、心臓マッサージなどは行われなかった。男はこう受け止めた。「家族の最後の願いを聞き入れてもらえなかった」 男は翌27日の未明、クリニックに電話してこう伝えている。「母親の胸が動き、呼吸しているように感じた」。男の記憶には、30~40年前のテレビで見た情報が残っていた。「72時間以内なら脳機能は生きている」という内容だ。「蘇生の可能性がある」と伝えたしたが、「明確に呼吸しているのでなければ行けない」と回答された。 27日の夜、母親をみとった男性医師や、リハビリに関わったスタッフらが男の自宅を訪れた。亡くなった母親に謝罪して、線香をあげてほしいと男に求められたためだ。 男は医師らが到着するまで散弾銃の手入れをした。趣味のクレー射撃に使っていたという。銃身や弾を確認し、母の遺体を安置した部屋の隅に銃を置いた。 ▽部屋で何が起きたのか。再生された音声には叫び声
午後9時ごろ、医師ら7人が現場となる男の自宅を訪れた。男は日常的に医師らとの会話を録音しており、事件当日の音声も録音されていた。検察側はこの音声データを法廷で再生した。 録音は医師らとのやりとりから始まる。「72時間で再生する淡い期待がある」「なんとなく胸が動いた」。落ち着いた声色だ。 話題はなぜか銃に移る。「先生がエアガンお好きだというので」。エアガンを何発か撃ったような音がした。男の法廷での説明によると、医師の趣味がサバイバルゲームと聞き、場を和ませる目的だったという。誰かが線香を上げたのか、仏具の「おりん」を鳴らすような「チン」という音も聞こえた。 そこから状況は急転する。静寂に包まれた法廷に突然「バン、バン」と大きな音が響き渡った。散弾銃の発砲音だ。「痛い」「やめろ」「110番」「だめだってば」。男女の悲鳴やどなり声、ばたばたと逃げ惑うような足音が続く。その後さらに銃声が聞こえ、再生は終了した。 ▽110番通報も再生。助け求める声も