医師を射殺し立てこもった男は、前日に死んだ母親の蘇生に固執した。根拠は30年近く前のテレビ情報。「72時間以内なら脳機能は生きている」
法廷では、事件直後の110番の内容も再生された。 通報は現場にいたクリニック関係者によるものだ。男性が息を切らしながら「発砲です」と告げた。後ろでは別の男性が助けを求める声が聞こえる。 さらに、発砲後の捜査員との電話でのやりとりが法廷に流された。「死ぬつもりでいます。未練もない。夢も希望もない」「クリニックに母を殺された感覚」「どうせ死ぬなら許せなかったやつを道連れにしてやろうと実行した」。 撃たれた男性医師は即死だったが、遺体は部屋に立てこもった男とともに取り残されていた。「先生は血を流して意識がない」「銃を手放すことはできないが、先生を運び出すことはできないか」と求めていた男は、警察とのやりとりに応じながら朝を迎え、突入した警察官に逮捕された。 ▽裁判の争点は殺意の有無。「断ずる」のメモ 裁判での争点は、男に殺意があったかどうかだった。検察側は計画性を指摘し、事件の日に書かれた男のメモを読み上げた。メモには医師らを「断ずる」との表現があった。他にも計画性をうかがわせる行動が明かされた。事件前に銃砲店に連絡し、威力の高い弾丸を自身の銃で使用できるか確認していたのだ。
男は医師への発砲について、殺意がなかったと主張した。その説明は「頭に血が上り、医師の膝を狙い、大けがさせてやろうと思った」。では、「断ずる」のメモは何のためだったのか。男は「アンガーマネジメントの一環だった」と弁明した。 被告人質問では、母親の蘇生へのこだわりを改めて口にした。「母はこの世で一番大切な存在」「72時間以内なら生き返るという情報にかけていた」。男性医師に対して、「蘇生措置をやってくれなかった」「今でもおかしいと思う」と不満を隠そうとしなかった。 ▽裁判所の判断は無期懲役 さいたま地裁は2023年12月、男に無期懲役の判決を言い渡した。判決理由で地裁はこう指摘した。 (1)至近距離から発射するなど強固な殺意にもとづいている。 (2)自分の銃で威力の強い弾を撃てるか事前に問い合わせており、計画性が高い。 (3)母親が亡くなった大きな喪失感を考慮しても、犯行は理不尽。
(4)男の逆恨みによる事件で、医療関係者に及ぼす悪影響も懸念される。 男は12月、判決を不服とし控訴している。