日本初、飛騨市「全小中学校に作業療法士」の理由 診断がなく相談先がない子たちにも支援が届く
保護者との合意形成がしやすくなった
学校OTの活動は、現場にどう受け止められているのか。モデル校として市内で最初に学校OTの支援が始まった飛騨市立古川小学校で、通級指導教室を担当する宮嶋康代氏はこう話す。 「昨年は奥津さんに全校に向けて作戦マンの活動をしていただいたことで、『自分にはできない』と諦めるのではなく『作戦を考えてやってみよう』という考え方に変わった子は増えた気がします。今年度は、集中力を高める瞑想などの授業をしていただくほか、困り事のあるお子さんの個別相談を優先し、主に次年度の就学に向けて奥津さんに見立てや検査、保護者へのフィードバックをしていただいています。保護者の方も悩んでいますから、発達に関わる点も専門家から直接お話ししていただけるのが心強いですね。専門家の見立てがない中で検討していたときは不安もあったのですが、今は就学に関して保護者と合意形成をしやすくなりました」(宮嶋氏) ほか、昨年度はCO-OPやウィスクの結果の見方、SP感覚プロファイルなどを学ぶ教員研修を奥津氏に対応してもらっていたが、今年度も引き続き実施している。 古川小学校では、学校OTの取り組みが今年で3年目を迎えた。校長の上口淳氏は、学校OTの意義と今後についてこう語る。 「奥津さんには、困り感がある子の支援とともに、周囲の子や教職員がその困り事や支援の必要性を理解できるようなアプローチもしていただいており、これからもそこは絶対に大事にしたいですね。児童や保護者の意見ももっと吸い上げながら対応したいと思います。学校作業療法室のニーズは今後さらに増えるはず。学校OTの方が増えて、よりタイムリーに相談できる体制が実現できればと考えています」(上口氏) 福祉と教育が協力しあうことで学校OTの体制を構築してきた飛騨市。そのために必要なこととして、教員経験がある教育委員会の都竹由梨氏はこう述べる。 「支援が必要なお子さんが多い一方、教員や学校は働き方改革を求められています。現場はやることが山積みで日々悩んでいましたが、飛騨市ではこの数年で大きく状況が変化しました。市長の強い思いから始まり、総合福祉課の地道な働きかけを経て実現した学校作業療法室を、今後もとにかく継続していきたいですね。そのためには、子どもや学校にとってどんなメリットがあるか、教員の皆さんが理解してくださっていることが重要です。教育委員会としても学校OTと学校をしっかりとつなぎ、両者に負担がかからないようサポートしていきたいと思っています」 現在、学校OTとして訪問支援を行っているのは奥津氏1人のみだという。人材の育成と確保が目下の課題のようだが、OTという専門家の視点と見立てが生かされる仕組み作りは、子どもはもちろん、保護者や教員にとっても大きな力となるはずだ。 (文:吉田渓、注記のない写真:飛騨市立古川小学校提供)
東洋経済education × ICT編集部