野田新体制の立憲民主党:中道・中道右派層の支持拡大にシフト
政策、政権運営の手腕に評価
第二の理由は、2022年10月の安倍晋三元首相を追悼する国会演説が名演説と評価され、野田の存在にあらためて注目が集まったことである。同年22年7月の参院選期間中に、安倍が銃撃によって亡くなった。自民党は追悼演説を行う政治家の人選に迷った結果、野田に白羽の矢を立てた。野田は政治的には対立を続けた人物を、厳しい批判を避け、一定の評価をしつつも全面的に肯定せずに追悼するという難題に挑んだ。野田の格調高い演説に、与野党議員は万雷の拍手拍手を送って絶賛した。 もともと野田の首相時における政策、政権運営については自民党の一部ですら評価し、安倍自身が「安定感がありました」(『読売新聞』2022年10月26日)というほどだった。立憲民主党が中道・中道右派に支持を伸ばす必要が迫られる中で、野田が代表選の有力候補として浮上するのは自然な流れだった。 野田は、共産党との協力を進めることや左派層からの支持獲得には否定的で、中道層から支持を集めることを強調する。自民党には、対抗する方法についてこう述べている。 「自民党に挑む『369の原則』がある。9は自分の政党の9割以上を固める。(これは)若手(の政治家に)は難しいですよ。6は無党派の6割をとる。つまり相手よりとる。3は自民党から3割とる」(『週刊エコノミスト』第101巻29号、2023年8月22日) 新たに誕生する石破茂政権は早期の解散、総選挙を決断すると予想されているが、野田は中道右派路線を打ち出し、これに対峙していくとみられる。 野田は演説がうまく、論客としても知られており、自民党にとってかなりの脅威となるだろう。
安保政策、野党共闘に課題
野田代表には二つの大きな課題がある。一つは中道右派路線と合致するような安全保障政策を提示できるのかということである。立憲民主党は2022年参院選の公約で15年の安保法制の「違憲部分を廃止する」ことを掲げている。また、「辺野古新基地建設を中止」することも約束している。 野田は代表選期間中、辺野古移設については首相として移設を目指してきたことについて言及しながら「今も基本形は変わらない」と述べている(『朝日新聞』24年9月12日)。問題は安保法制である、代表選出馬に際し、一気に変換させることは目指さないと留保しながらも、15年の安全保障法制は「違憲」であると明言している(『時事通信』2024年9月5日)。立憲民主党の支持勢力を拡大するためには安全保障政策をより抜本的に見直す必要がある。これができるかどうかが問われている。 もう一つは野党共闘をいかに構築するかである。中道・中道右派層に支持を拡大するにせよ、同じ選挙区で日本維新の会や国民民主党と競い合えば、自民党を利することになる。何らかの選挙協力を実現し、この二つの勢力と候補者を一本化する必要がある。 野田が立憲民主党の勢力を拡大するためには、総選挙までにこの二つの課題に応えることが必要である。(文中一部敬称略)
【Profile】
竹中 治堅 nippon.com 編集企画委員長。1971年東京都生まれ。1993年東大法卒、大蔵省(現財務省)入省。1998年スタンフォード大政治学部博士課程修了。1999年政策研究大学院大助教授、2007年准教授を経て現在、教授。主な著書に『参議院とは何か 1947~2010』(中央公論新社/2010年/大佛次郎論壇賞受賞)など。