「首都直下地震の被害軽減に耐震補強工事を急ぐべき」元雑誌編集長が提言
このほか、港湾や漁港については「耐震強化岸壁」とすることや、建物も1981年5月以前の旧耐震基準で造られたものは、少なくとも81年6月以降の新耐震基準に適合させることを求めています。 ■国土強靭化の予算獲得が公共事業の錦の御旗に なお、今回はもう一つの巨大地震で、東九州にも大被害をもたらすといわれる「南海トラフ地震」の被害推定は見直していません。しかし、前回の報告書で既に、発生後20年間の経済被害は首都直下を大きく上回る1872兆円に上ると推計し、こちらは道路対策を進めるだけでおよそ2割に当たる375兆円分の被害を軽減できると提言しています。 もっとも、新聞記者の習い性で疑い深い私は、土木学会の会長・副会長がいずれもゼネコンの幹部であることや、そもそも「国土強靭化」は東日本大震災後に自民党が打ち出して法制化し、2016年には二階俊博氏をトップとする推進本部が立ち上がったという経緯もあって、携わった専門家の皆さんには申し訳ないのですが、一連の報告書に一種の“プロパガンダ”=政治的な宣伝臭を感じないでもないんです。 実際、推進本部の発足後は毎年、補正予算で1兆円以上の公共事業費が積み増され、今や国土強靭化対策が公共事業費の6割を占めるまでになりました。今年度の関係予算は前年から3割増しのおよそ6兆2000億円にのぼり、いわば「国土強靭化」が予算獲得の“錦の御旗”になっている面もあるからです。 ただ、政治的な背景はともかく、橋や道路、港湾、トンネルなど社会資本の老朽化は、先進国が共通して抱える問題であることは間違いなく、対策をすることが減災=自然災害の被害軽減につながることも事実です。 ■防衛費増額分を地震対策に充てることこそ「国防」 少し横道にそれますが、バブルの崩壊前、作家・村上龍さんが書いた「あの金で何が買えたか」という絵本が話題になったことがあります。経営が傾いた金融機関の救済や不良債権処理のために投入された総額12兆円以上の公的資金、そのうち1銀行に投入されたお金で米IT企業大手Appleが買えたとか、パレスチナの復興や世界の砂漠化防止もできたとか、お金の使い道と価値を考えさせる本でした。