「潔癖症なの?」古本をウェットシートで消毒…迷惑客に戸惑い 法的な問題は?
「本屋の本を消毒しながら読むのは良いのでしょうか」。都内の大学に通うケンタさんは、近所の古本屋で驚くべき光景に出くわしたと言います。 男性が、漫画を立ち読みしているのですが、漫画を手に取る際に、本をアルコールの含まれたウェットシートで消毒しているというのです。 ケンタさんは男性の様子をみて「潔癖症であればしょうがないし、消毒により本の汚れや臭いが落ちているから問題ないのではないか」と感じながらも、戸惑ったそうです。そこで弁護士ドットコムニュース編集部に「このような男性の行為は法的に問題ないのでしょうか」と質問を寄せました。 法的にはどう考えられるのでしょうか? 大和幸四郎弁護士に聞きました。
●本の買い取り義務はある?
――男性の行為は問題ないのでしょうか。 本件は非常に難しい問題ですので、以下はあくまで私見として説明します。 確かに未だコロナ感染症の脅威はなくなっていないと思います。そうすると中古の本をウェットシートで拭く男性の気持ちはわからなくはありません。 しかしながら、たとえ潔癖症であっても漫画を手に取る際に、本をウェットシートで消毒するのは行き過ぎと考えます。 ウェットシートで拭くことにより、アルコール成分で本を傷めてしまう危険性が高いように思います。古い本にシミができたり、ニオイがついたりする恐れがあります。中古本独特の良さも失われるかもしれません。 中古本であっても、購入するまでは店側のものであり、それに対して勝手に消毒するのは許されないと考えます。 ――法的な責任が男性に発生するということでしょうか。 ウェットシートによる消毒で本を傷めてしまった場合、男性の行為は民事的には不法行為(民法709条)、刑事的には器物損壊罪(刑法261条)に該当する可能性はあると思います。 不法行為に当たるとしても、損害の算定が難しく、被害額も小さいので、実際に請求することは難しい問題だと思います。また、男性が当該本を自主的に買うことは可能でしょうが、強制的に買い取る義務までは難しいと考えます。 刑事的にも、器物損壊罪における「損壊」とは、物の効用を喪失する程度と考えられています。本が傷んでも効用喪失までには至っていないと評価されることもあるでしょう。 また、器物損壊罪は親告罪であり、告訴が必要です(刑法264条)。たとえば何度も来店し、そのたびに多くの本をウェットシートで拭いてしまうようなよほど悪質な客でもない限り、店主が告訴することは考えにくいのではないでしょうか。