名前を変えてやり過ごす日銀、ふんわり路線はこれからも続くのか?
Q:「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」の導入は追加緩和だったのか?
A:追加緩和ではない。従来から導入されていた「量」「質」「金利」に変更はなかったので事実上は現状維持。 日銀は市場から「ゼロ回答」とみなされることを嫌い、政策パッケージの名称を変更することで「金融緩和強化のための新しい枠組み」と謳ったとみられる。ちなみに、「量」は長期国債の購入“量”、「質」はETFの購入など、「金利」は主として政策金利(翌日物金利)を意味する。
Q:主な変更のポイントは?
A:以下の3点。 (1)新たにイールドカーブコントロールという手法が導入され、短期金利が▲0.1%、10年金利がゼロ%程 度という2つの政策金利の誘導目標が設定された。 (2)オーバーシュート型コミットメントというフォワードガイダンス(将来の金融政策に対する口約束)が導入され、2%目標の曖昧さが回避された。 (3)これまで長期国債の買入れペースは年間80兆円程度とされていたが、今後は80兆円が「めど」とされ、同時に買入対象については平均残存期間の定めが撤廃された。また、(1)の運営にあたって「マネタリーベースの残高は短期的に変動しうる」と明記され、政策の優先度合いが「金利>量」であることが明確に示された。
Q:イールドカーブコントロールの意図は?
A:日銀にとって、マイナス金利と量的緩和の組み合わせがイールドカーブの極端なフラット化を招いたのは誤算であった(金利が下がり過ぎた)。しかしながら7月29日以降の長期ゾーンの金利上昇によって、直近のイールドカーブは日銀にとって心地よい形状となっていた。そこで、日銀はこの形状でイールドカーブを固定しようと判断した模様。
※イールドカーブとは債券の年限ごとの利回り。フラット化は長短金利差が縮小すること。
Q:オーバーシュート型コミットメントとは? またその導入の背景は?
A:声明文には「マネタリーベースの残高は、~中略~消費者物価指数(CPI、除く生鮮食品)の前年比上昇率の“実績値”が安定的に2%を“超える”まで、拡大方針を継続する」と明記され、いかなる解釈でも物価目標達成の基準が揺らぐことがないよう、文言が変更された。 従来の声明文は「2%の『物価安定の目標』の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで『マイナス金利付き量的・質的金融緩和』を継続する」と、やや曖昧な部分があったため「CPI実績値が+1.8%なら2%程度とみなされ、出口戦略が模索されるのでは?」といった具合に解釈の幅があった。2%目標が柔軟化されるとの見方も一部にあったので、フォワードガイダンスが強化されたことは予想外であった。