地道なトレーニングで「落ち舌」は改善できる/医学博士照山裕子
「100歳まで食べられる歯と口の話」<20> 舌の力が衰えていないかを知る簡単なセルフチェック法がいくつかあります。<1>鏡を見て口を開けた時に口蓋垂(のどちんこ)が見える<2>上あごに舌全体がついている<3>「タ」「カ」「ラ」をそれぞれ5回ずつ素早く言える、といった項目が代表例です。ひとつでも当てはまれば舌の力が弱っている可能性があり、2つ以上該当するのであれば立派な落ち舌です。 特に<3>の発音はそれぞれ使う舌の場所が異なるので、具体的にどの部分が衰えているかの目安になります。「タ」は舌先の前方を使います。舌を前に押し出す力は、食べ物をとりこみ、口の奥へ持っていく働きをします。「カ」は舌の後方を使います。舌をのどの奥へ引く力は、運ばれた食べ物を食道に運ぶ機能をもちます。「ラ」は舌が上顎について離れる動きで出る音です。舌を上方へ動かす力は、飲み込みの動作に必要です。こうした緻密な働きが全て連動することで、誤嚥(ごえん)せずに食事をスムーズに消化、吸収することができるのです。つまり舌は部分的にピンポイントで鍛える必要があり、発音を利用したエクササイズは日常生活に取り入れやすいと思います。私が担当する患者さんの中には、口の強化のために合唱団に入ったという方もいました。 年齢を重ねると唾液の分泌量も低下し、口が渇きやすくなります。水分が少なければ、咀嚼(そしゃく)した食片が塊になりづらいので、なめらかに食道まで運べなくなります。しかし体にこうした変化が起きることを知らないままでは、当然何の準備もできません。いつの間にか食事の度にむせてしまう癖がついたり、免疫が落ちてくれば誤嚥性肺炎などの発症リスクも上がります。 誰もが経験して当然の加齢現象を補い、口の力を維持していく秘訣(ひけつ)は、自身で鍛えられる部分の地道なトレーニングです。知識と対策が、100歳まで食べられる口を生み出すのです。