「いやいやいや…」藤井聡太“まさかの一手”に控室が騒然、解説者は絶句…伊藤匠が迫り、八冠に起きた異変 藤井聡太「初失冠の1日」
大盤解説の松尾八段が「難しい…」
対局画面に集中すると、評価値はややわずかに藤井の方に傾いた状況だった。 ここで気になったのは、隣接する大盤解説会場である。 大盤解説会の会場には、2つの大型スクリーンがある。対局する2人の姿、天井カメラからとらえた「評価値が表示されていない」現局面である。ここでは解説役の棋士も、対局する棋士と同じ感覚で考えを巡らせている。 例えば渡辺棋王と藤井五冠が新潟市内で相まみえた2023年の棋王戦第3局でのこと。両者1分将棋の中で評価値が〈99%-1%〉と〈1%-99%〉を激しく行き来する最終盤を戦った末、渡辺に軍配が上がった。対局した2人の鬼気迫る表情はもちろんだが――大盤解説会を担当した高見泰地七段が、相当の読みを必要としたため終局後に息切れするほどに消耗していたのが印象に残っている。 叡王戦第5局、解説を担当した松尾歩八段も、手に頭を当てつつ、何度かつぶやきながら大盤を操作していた。 「難しい……」 ギャラリーの中には、評価値が表示されるABEMAでの中継や将棋連盟ライブ中継に視線を落とす人もいた。しかし大盤解説会に映し出される映像は、スマホに映る画面よりも数秒から数十秒だけ早い未来がある。藤井が髪をかき上げ、伊藤が頬杖をついて必死の思考ぶりを見せる様子に、さまざまな席から言いようのない嘆息が漏れた。
記者控室にうめき声が…
「まだまだ先が長いですね」 松尾八段が繰り返した言葉に、緊迫した会場からようやく笑い声がこぼれた。しかしそこから数分して、藤井が固めた先手玉に対して、伊藤がじわじわと迫りつつあった。 「後手が面白くなっているようにも、見えますね」 記者控室に戻っても、一手ごとに「いやあ」「ううむ……」と、持ち時間が徐々に少なくなっていく中で、紙面の締め切りに間に合うかどうかの電話打ち合わせなどとともに、うめき声が広がる。
17時17分 「6四桂」で形勢が大きく動く
叡王戦の持ち時間は八大タイトル戦の中で最も短い各4時間ごとで、「3分58秒」「12分11秒」といった感じで秒単位で記録されるチェスクロック方式が採用されている。持ち時間を互いに消費し、藤井が先に計4時間を使い切り、伊藤も「1分将棋」の入口に立とうとしていた。 そんな終盤も終盤、評価値が示す形勢が大きく動いたのは17時17分のことだった。 131手目、藤井が「6四桂」と打った一手だった。ABEMA解説を務める2人の棋士が指し手を告げたのみで言葉を継げないでいると、伊藤に評価値が大きく動く。それは「将棋連盟Live」の評価値に目をやっても同じだった。 「いやいやいや……ついに……」
両者は1分将棋へと突入
藤井のタイトル連続獲得記録「22」がストップ、そして初失冠、すなわち八冠独占が崩れる瞬間が訪れるのか。 記者控室のどよめきが大きくなる中で――映像の藤井は右拳で膝を叩きつつ、ため息が漏れる。伊藤はそれを察知しつつ盤上を見つめる。これまでになかった構図と緊迫した場面が画面に映し出される。両者は1分将棋へと突入した。 <つづく>
(「将棋PRESS」茂野聡士 = 文)
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