スマートニュース社員200人削減の舞台裏。新社長の教訓「アクセルの踏み過ぎだった」
誤算だったコロナ後の成長鈍化
小さな違和感を感じつつも積極採用を進めていたスマートニュースを襲ったのが、「コロナバブルの終焉」だった。 4度の緊急事態宣言を経て、次第に人々の外出が増えたことで、SmartNewsへのアクセス数も減り、コロナ禍で記録した成長にも陰りが見え始めていた。 それでも、動き出していた組織拡大の流れは止めなかった。 「バブルが収まった後も『成長がまだ続くだろう』と楽観的に考え、状況をなるべく好意的に解釈し続けようとする雰囲気があった」(浜本氏) 人件費が膨れたこともあり業績は悪化していった。エンジニア出身でもある浜本氏は、経費削減に奔走し、サーバーなどインフラコストの削減を進めた。 「しっかりコスト削減をすれば、人件費に手をつけずに済むのではないかという希望があった」(浜本氏) しかし根本的なコスト体質の改善にはつながらず、もはや大きな痛みを伴う選択肢しか残されていなかった。 浜本氏ら経営陣は、アメリカや中国拠点も含めて総人件費の4割削減、社員数にして200数十人のレイオフ・希望退職の募集を決めた。 レイオフ対象社員向けの説明会は、冒頭のように紛糾したが、それでも希望退職募集の対象かどうかを問わず、社員同士で退職者に再就職先を紹介する動きが社内で生まれたという。 「(社員の古巣など)互いに知っている人たちを紹介していくような草の根のサポートが次々と生まれていった。社員には本当にもう感謝しかない」(浜本氏)
「得意領域が違う」CEO交代の経緯
半年ほどかけ計画した規模のレイオフを完了させた後、次に着手したのが経営体制の変革だった。 創業以来、スマートニュースは共同創業者の鈴木健氏と、同じく共同創業者の浜本氏が基本的に2トップ体制で事業を拡大させてきた経緯がある。 鈴木氏は慶應義塾大学卒業後、東京大学大学院で博士課程を修了。その後、2012年に浜本氏とともにスマートニュースを創業した。博士かつ経営者という異色のキャリアを持つ鈴木氏は創業後、浜本氏との共同CEO期間(2014年8月~2019年6月)を含めて9年余りCEOを務め、クーポン機能など新しいニュースアプリとして話題を集めた。鈴木氏のリーダーシップのもと、アメリカでもサービスを展開するなど、時価総額2000億円規模の企業に成長させた人物でもある。 レイオフを経ての組織改革では、この2トップ体制も見直した。 2023年11月、「長期的なビジョン」を描くことを得意とする鈴木氏は、代表取締役社長CEOを退き、会長に就任。同時に、浜本氏は立て直しに専念するために新CEOに就任することが決まった。 浜本氏も経営陣の一人として、人員削減を避けられなかったという経営責任も痛感している。それでもCEOという「重責」を引き受けたのは、エンジニア出身という自らの強みを活かせると考えたからだ。 「エンジニアとして遠い未来よりも、今、目の前にあるこの作品をどう仕上げていくかという発想で物事に向き合うことが多い。 事業の足元の状況を見極めながら着実に伸ばしていくのが得意分野。会社を立ち直らせ、事業を再成長させるのに適しているのは自分だろうと」(浜本氏) 同社広報によると、同社はレイオフ後、広告事業を中心に事業を立て直しつつあり、一時中断していた採用活動も現在は再開。新たな社員が入社することで、オフィスにもかつての活気が戻りつつあるという。
樋口隆充