妻が海外赴任、その時に夫はどうなる…?◆仕事漬けから一転、「駐夫」になって見えたもの #働くあなたへ
◇帰国後のキャリアは…?
3年間の休職制度の期限だった20年11月に、共同通信を退社した。その頃はコロナ禍の真っただ中。「家族を残して日本に帰国することは考えられなかった」という。その後、妻の転勤が決まり、渡航から3年3カ月経った21年3月に帰国した。 小西さんは、自身の経験から「駐夫たちの帰国後のキャリア」について本を書こうと考えていた。帰国直後から大学院に通い、20~40代の駐夫経験者10人にインタビュー。修士論文としてまとめた上で、加筆・修正し「妻に稼がれる夫のジレンマ」を完成させた。 「私が渡航時に悩んだキャリアの問題について知りたかったんです。自分に起きたことが、果たして他の人にも起きていたのか」。稼ぐことが無くなった喪失感や、夫婦関係の変化に対する葛藤、異国の価値観から得た気付き……。どの人も一筋縄ではいかない悩みを抱えつつも、海外生活を機にこれまでの意識を変えキャリアの再設計に挑んでいた。今後もフリーのジャーナリストとして、キャリア形成やジェンダーに関する取材や講演活動を続けていく計画だ。 ◇男性が同行は「8%」 小西さんのような駐夫は、まだかなり少数派だ。国は国家公務員に対する最長3年の配偶者同行休業制度を14年に導入したが、制度利用者のうち9割超が女性。男性は8%にとどまる。一方、労働政策研究・研修機構の調査(16年実施)によると、同様の制度を導入する民間企業は3.9%。検討中は1.6%だった。 現在は同制度を導入する企業も徐々に増えてきたとみられるが、小西さんは全ての企業に必要だと強調。復職の際、海外滞在期間に習得した語学や資格、ボランティア活動などを評価する仕組みも求める。また、同行する配偶者はいったんこれまでのキャリアから離れざるを得ないことから、「駐在員を送り出す企業はその点を認識し、配偶者への語学やキャリアなどを支援する仕組みを作っていくべきだ」と指摘する。 ◇男女格差、男性が認識を 記者時代は家庭より仕事が最優先だった。「『俺の仕事の方が上なんだ』と壮大な勘違いをしていた。妻は冷ややかな目で見ていたと思いますよ」。男のメンツを守るために長時間労働もいとわない姿勢が大事だと思い込んでいたが、半ば強制的にキャリアを離れたことで「常に求められてきたマッチョさ」から降りることができたという。 日本ではかつてに比べ就業する女性が増え、「男は仕事、女は家庭」といった価値観は薄れつつあるが、男女格差の実態は依然として存在する。経済協力開発機構(OECD)によると、日本の家事や育児など無償労働の時間は男女で5.5倍もの差があり、各国が2倍程度の中で特に際立つ。世界経済フォーラム(WEF)が毎年公表している「ジェンダー・ギャップ指数」でも、日本は特に政治や経済分野で男女差が大きく、主要国で最低レベルの状況が続いている。 「男女の状況の非対称性について男性自身が気付くことから、何かが変わってくるはず」と小西さん。本当に大事なことは仕事だけなのか。「壮大な勘違い」の末に見えた問いを、男性に、企業に、社会に訴え続けていく決意だ。