「私が関心を持つのは“危機に陥った人”」映画『ソウルの春』キム・ソンス監督が気が付いた1980年代の“思い込み”
韓国映画の強さの理由
そしてこれまでは、男性が政治に関心があると思われてきましたが、その多くは、権力の主軸、中枢があって、その周辺にむらがるという構造に関心があったのではないかということも思いました。時代の変化によって、女性の政治に対する感覚も変化していっているからこそ、『こういう映画は流行らない』と言われていた題材であっても1300万人という方に見てもらうことができたんだと思います。 1980年代~90年代に言われていたような『女性は女性が主人公の物語やラブストーリー、コメディに惹かれる』というようなことも、勝手な思い込みであったし、間違っていたのだと気づきました。今回の映画の反応で最も強く印象として残ったのは、女性や若い世代が、社会的に正義とは何かということに対する関心が高かったということでした」 世代や性別を細分化して消費のターゲットとしてその嗜好を分析し、「この映画は男性に受けるはずだ」とか「この映画は若い女性が好む物語だ」と決めつけて映画を作るということは、日本でも行われている。しかし近年は、そのように分析してもズレが少しずつ生じていて難しい局面を迎えてきている。ところが、いまだに「政治を描いた映画は流行らない」とか「女性の観客を呼ぶにはもっとラブストーリーの要素を入れないと」というセオリーに則った映画も多く、ときおりこのことは問題視もされているが、まだまだ変わろうとはしていないように感じる。 そんな風に感じていた中、監督が「以前のようなやり方は間違っていたのではないか」と率直に語ってくれたことに、胸がアツくなったし、韓国映画の強さの理由を感じとった。映画『パラサイト 半地下の家族』の米アカデミー賞の受賞コメントでプロデューサーが、「韓国の観客の率直な感想が映画を育てた」という趣旨のことを言っていたように、常に評価を受け止めて変化しようとする姿勢が韓国映画を成長させてきたのではないだろうか。 そんな韓国映画界で、キム・ソンス監督はどのようなテーマを掲げて映画を作っていきたいのだろうか。 「どんなジャンルの映画を作るにしても、私が関心を持っているのは『危機に陥った人たち』なんです。そんな風に人が危機に陥っているときには、いい面も悪い面も含めて本性が表れるものだと思います。人間も動物なので、動物としての本性というものが強く出るでしょうし、それが人間としての本質でもあると考えています。そういう局面にいる男性たちや、そのときの人間関係、反応には、肯定できるものもあるし、そうでないものもあるでしょう。これからも私は、『危機に陥った人たち』に興味を持って、映画を作っていきたいと思っています」