慶事欄なくなる?YouTube活用も◆変わる「社内報」企業の狙いは… #令和に働く
あなたが勤めている会社に「社内報」はありますか。かつては、社員向けに紙の冊子で配られることの多かった社内報が今、時代の変化とともに大きく変わっているのだと言います。社員の結婚や出産をお知らせする「慶事欄」を廃止したり、社外にも内容をオープンにしたり。その背景には何があるのか取材すると、働き方の変遷や企業の悩みが見えてきました。(時事ドットコム取材班 谷山絹香) 【写真】ユーチューブ社内報の撮影の様子 ◇ユーチューブで「社内報」 「おはようございます!」。2024年9月中旬、求人・転職情報サイトを運営する「エン・ジャパン」(東京)の本社で、入社6年目の壷内悠伊さんがカメラに向かって元気よく挨拶した。音声や動画編集のスタッフが取り囲む中、行われていたのは、「ユーチューブ社内報」の撮影だ。「Welcome! エン・ジャパン」と題し、新入社員や社内で活躍する人へのインタビュー動画を制作し、社外にも公開している。 この日のテーマは、社員の「1日密着インタビュー」。社内ミーティングの様子などがカメラにおさめられ、「時代が求めるものを先取りして提案できるようになりたい」と壷内さん。「これまでお世話になった(社内外の)人たちに、頑張っている姿を見せられたら嬉しい」と笑顔で語った。 同社がユーチューブ社内報を始めたのは、2019年。当時採用を増やして若手社員の割合が高くなっていたことで、「社内にどんな人がいるのか分からない」「どんな働き方があるのか知らない」といった声が目立つようになったのがきっかけという。広報の清水朋之さんは「若手を含めて文章より動画の方が見てもらいやすいようで、ユーチューブ社内報を見て入社を志望してもらえるなど、反響は大きかった」と振り返る。社風をアピールできることで内定辞退率を減らす効果も出ており、最近は専属の映像ディレクターを採用するなどして、更に力を入れているそうだ。 ◇進む「オープン化」 実は近年、「社内報」という名前とは裏腹に、社外にも情報を公開する企業が増えているという。そう話すのは、社内報の企画・制作を手掛けるウィズワークス(東京)が設置した「社内報総合研究所」の橋詰知明所長だ。「『オープン社内報』を始める企業が増加しているのは、自分の会社の良さを社外にも広く知ってもらうため。ステークホルダー(利害関係者)や学生にも見てもらうことで、企業のブランド向上に繋がったり、採用活動にも良い影響を及ぼしたりする」という。 さらに、社員にとどまらず、家族にも社内報を共有することで、「会社で働くことを家族が応援してくれるようになり、早期離職の防止にもなる」と指摘。「ここ数年は、社内報を経営ツールと考え、戦略的に作っている企業も増えている」と話す。 ◇ウェブ化「手軽に見られる」vs「手作り感なくなった」 新型コロナウイルス禍を経て、社内報の紙からウェブへの移行も進んでいる。社内報総合研究所が国内の企業や団体を対象に実施した2023年の調査(有効回答277社)によると、社内報の発行媒体を複数回答で尋ねたところ、紙に印刷した従来の社内報と、社内のイントラネット(社内業務サイト)で公開する「ウェブ社内報」を発行していたのはそれぞれ167社ずつで、ちょうど同数だった。 社内業務用のサイトとは別に、スマートフォンやアプリで、より手軽に社内報が読める企業は52社、動画を導入している企業は42社あった。橋詰知明所長は「コロナ禍で出社が制限されたことで、デジタル化のハードルが一気に下がったのだろう。スピード感や利便性、コストを考えると当然の流れだ」とみる。 市場調査会社「マクロミル」(東京)も、ウェブに移行した企業の一つだ。20年以上、紙の社内報「ミルコミ」を発行してきたが、コロナ禍以降、社員に手渡すことが難しくなっていたことや、隙間時間でも手軽に見てほしいとの思いから、24年8月、メディアプラットフォーム「note」での公開に切り替えた。 社内からは「サイトのURLを送れば、誰にでも見てもらえるので、シェアしやすい」と歓迎の意見が上がる一方、「紙の手作り感が好きだったので、なくなると寂しい」と残念がる声も。ある男性社員は「冊子だと、めくっているうちに、自分が見たいと思っていなかった情報にも遭遇することがあるが、ウェブの記事だと見たいものしか見なくなるかもしれない」とつぶやいた。