RWD「最初で最後」の600馬力超え アウディR8 V10 GTへ試乗 ストレスフリーこそ最大の偉業
運転はストレスフリー 別れを辛くする爽快感
何より、自然吸気5.2L V10エンジンの咆哮が凄まじい。鋭い加速を生むターボチャージャーが、どれほど聴覚的な喜びを奪ってきたのか、痛感させられる。前後のカナードや、スワンネックのリアウイングは、それを視覚的に実感させるのに効果的だ。 それでいて、乗り心地や外界との隔離性、扱いやすさという点では、ポルシェ911 GT3より911 カレラに近い。ミドシップのスーパーカーでありながら、運転体験はストレスフリー。これこそ、R8最大の偉業といえる。 後輪駆動のV10 GT RWDは、素晴らしい操縦性のバランスを秘め、ステアリングはメスのように高精度。傷んだアスファルトを通過しても、圧巻なほど影響は受けにくい。 安定性が高く、垂直方向の姿勢制御も秀抜。ドライバーの気分次第では、タイトなカーブで思い切りふざけることも難しくない。 V10エンジンが本気のパワーを放つと、トラクションが心もとなくなる。とはいえ、線形的に反応し、直感的に右足を踏んでいける。冷や汗をかくような恐怖はないだろう。 ストレスフリーなだけに、R8 V10 GT RWDは長距離走行も得意分野。悪びれた見た目とは裏腹に。 運転体験にドラマ性が乏しいと感じる人は、いるかも知れない。だがアウディは、モデルライフ後半に僅かな改良を施したに過ぎなかった。911 GT3 RSのような、シリアスなマシンに変えるつもりはなかったようだ。 フィナーレを飾ったV10 GT RWDも、われわれが愛してきたR8の特徴を残していた。親しみやすい個性はそのまま。別れを一層辛いものにする、爽快感を追加して。
アウディR8 V10 GT RWD(英国仕様)のスペック
英国価格:19万8333ポンド(約4006万円) 全長:4429mm 全幅:1940mm 全高:1236mm 最高速度:320km/h 0-100km/h加速:3.4秒 燃費:6.7km/L CO2排出量:340g/km 車両重量:1570kg パワートレイン:V型10気筒5204cc 自然吸気 使用燃料:ガソリン 最高出力:620ps/8000rpm 最大トルク:57.5kg-m/6400-7000rpm ギアボックス:7速デュアルクラッチ・オートマティック(後輪駆動)
リチャード・レーン(執筆) 中嶋健治(翻訳)