農作物被害は158億円 ベテラン狩猟者と初心者の融合で、解決目指す
ワナシェアの取り組み
ワナシェアは今年度、11人の会員が集まった。狩猟期間に共同でわなを設置する。わなに獲物がかかれば、会員で解体し、肉も分け合う。 11月下旬、吉田さんと会員9人でわなを設置することになった。仕掛ける場所は、シカが頻繁に出没する吉田さんの別荘周辺。当日朝、吉田さんは事前に設置したトレイルカメラ(監視カメラ)の画像を会員に示し、シカの動きを説明した。 「この場所で11月8日に雄ジカが写っていたのですが、これ以降はシカが来ていない可能性があります。理由はよくわかりませんが、11月15日から猟期が始まっているので、その影響でシカの動きが変わっているのかもしれません」 設置するわなは、ワイヤーで動物の足をとらえる「くくりわな」というもの。地面に踏み板とそれを取り囲むように配置したワイヤーを仕掛け、動物が踏み板を踏むとワイヤーが締まり、足をくくるという仕組みだ。 参加者たちは猟場に行き、足跡や地形を確認して、動物が通りそうな道にわなを仕掛けていく。わなに触れるのはわな猟免許の所持者のみだが、いずれの人も経験が浅く、設置に四苦八苦していた。
参加者の中に、さいたま市の60代の母親と30代の娘の親子がいた。2人は昨年9月にわな猟と銃猟の免許を取得したばかりで、猟の経験はまだなかった。 「わなを仕掛ける場所もわからないので、初歩的なところから教えていただこうと思い、参加しました」 娘はワナシェアの会員になった理由をそう話し、母親は一人ではなくグループで取り組めるよさを語った。
全国の問題解決につながる
わな猟では捕らえた獲物を長時間苦しめないため、その日のうちに処理、解体する慣習がある。わなを仕掛けた後は、本人が毎日見回ることが求められるが、ワナシェアでは吉田さんと参加者でスケジュールを調整し、交代で見回りをすることになっている。 従来とは違うスタイルについて、違和感を覚える猟友会のメンバーもいるかもしれないが、前出の石黒さんは「カリラボと地元猟師の理解を深めるため、地元に暮らす私がつなぎ役になれれば」と述べた。 石黒さんは吉田さんの勧めで2019年にわな猟の免許を取得し、武甲猟友会にも所属。そして2020年度はカリラボの活動も手伝っている。カリラボの活動の重要性を感じているからこそ、地域との相互理解が重要だという。 富田町長も「カリラボの活動には注目している」と話す。 「吉田さんの提案は、横瀬町が抱える鳥獣害問題や猟師の高齢化といった社会課題にストレートに取り組むものです。カリラボの活動で若い人たちに狩猟や横瀬町に興味を持ってもらえたら、すてきだなと思います」 吉田さんは横瀬町でカリラボの活動を続けていくことが日本全体の有害鳥獣対策につながると考えている。 「この活動を何年か続けていけば、経験やノウハウが蓄積され、他の地域に伝えられる人も出てくると思います。そういう人たちを増やして、日本全体に広げていければと思います」
荒舩良孝(あらふね・よしたか) 1973年、埼玉県生まれ。科学ライター/ジャーナリスト。科学の研究現場から科学と社会の関わりまで幅広く取材し、現代生活になくてはならない存在となった科学について、深く掘り下げて伝えている。おもな著書に『重力波発見の物語』『宇宙と生命 最前線の「すごい!」話』『5つの謎からわかる宇宙』など。公式note