農作物被害は158億円 ベテラン狩猟者と初心者の融合で、解決目指す
農作物被害額は158億円
農林水産省の調べによると、野生鳥獣による農作物の被害額は2019年度が158億円。その6割以上を占めるのがシカ、イノシシだ。本州以南のニホンジカの個体数は1989年度に28万頭だったのが2017年度には244万頭、イノシシは1989年度に25万頭だったのが88万頭と大幅に増えた。
増えた要因の一つが、狩猟免許を所持する人の減少だ。環境省によると、全国の狩猟免許所持者数は1975年度の51.8万人から2016年度の20万人へと6割以上も減少。また、免許所持者の半数以上が60歳以上だ。要は、狩りをする人が減り、高齢化している。 武甲猟友会も最盛期には100人ほどの会員がいたが、現在は20人ほどだ。大半が70代、80代。10年後に活動ができなくなる可能性も指摘されていた。
被害に頭を悩ませる行政
こうした状況に行政も悩んできた。横瀬町の富田能成町長(55)はこう語る。 「シカ、イノシシ、サルなどに畑や果樹を荒らされる被害は、この20年ほどのスパンでは増加傾向にあります。理由の一つは山間地の人口減少です。農地を電気柵で囲う、爆竹を鳴らすなどの対応をしていますが、根本的な解決は難しい。猟友会の協力で有害動物の駆除に力を入れていることもあり、この数年は改善が見られます。ただ、猟友会の方々の高齢化は、由々しき事態です」
町の地域おこし協力隊の元メンバーで、集落支援員の石黒夢積さん(33)もこう語る。 「農家さんからは、頑張って農作物をつくっても半分は動物に取られてしまうと嘆く声を聞きました。何のためにつくっているのかわからないし、買ったほうが安いと話す人もいます。猟師が減ると、農業を諦めてしまう人が増えると思います」 シカやイノシシの被害が多い山間地では、山の斜面を耕していることが多いため、農地面積や農業規模が小さいことが多い。被害額は小さいものの、農家にとって心理的なダメージが大きいのだという。 一方で、若手の猟師がすぐに力を発揮できるかというと、そう簡単ではない。命を落とす危険もある狩猟は、ベテランの指導の下、さまざまな経験を積む必要があるからだ。